(旧版)高血圧治療ガイドライン2009
刊行によせて
日本高血圧学会
理事長島本和明副理事長松岡博昭
現在,わが国の高血圧人口は4,000万人ともいわれていますが,急速な高齢化が進行している状況を鑑みますと,今後一層の高血圧人口の増加が推測されています。わが国で最も頻度の高い高血圧に対して広く実地医家の先生方に標準的な治療指針を提供することを目的として,日本高血圧学会では2000年に故藤島正敏理事(当時)を委員長として初めての高血圧治療ガイドライン(JSH2000)を発行しました。2004年暮には猿田享男理事(現名誉会員)を委員長としてJSH2000を改訂したJSH2004が発行されております。これらのガイドラインは,高血圧学会の生涯教育講演会などを通じて広く実地医家の先生方に浸透しているといえましょう。一方,高血圧治療に関する研究の進歩には目覚ましいものがあり,欧米においては毎年のように重要な大規模臨床試験の成績が報告されております。それらのエビデンスを基として欧州では欧州高血圧学会と心臓病学会(ESH-ESC)が2007年に新しいガイドラインを発表しております。ご承知の通りJSH2000やJSH2004においては,わが国発のエビデンスも幾つか記載されておりますが,欧米のエビデンスを数多く取り入れたものになっております。高血圧によって脳卒中をはじめとする循環器疾患や腎疾患が惹起されることは人種を問いませんが,生活習慣,疾病構造,医療制度などは各国で異なっており,わが国のエビデンスに基づいたわが国独自のガイドラインの作成が大切であることはいうまでもありません。疫学研究ではわが国でも以前から優れた研究成果が報告されておりましたが,最近,わが国発の大規模臨床試験の成績も報告されるようになり,また,進行中の試験も少なくありません。
以上のような背景のもと,日本高血圧学会はJSH2004を改訂することとして,2007年夏にガイドライン作成委員会(委員長荻原俊男理事,副委員長菊池健次郎名誉会員,事務局長楽木宏実監事)を立ち上げました。本ガイドラインの特徴は,最新のわが国発のエビデンスならびに欧米のエビデンスを参考に作成されていること,多くの先生方にご参加いただき,また,高血圧学会の全会員の方々からもご意見をいただきながら,オープンな形で作成されたことであります。本ガイドライン作成に中心的役割を果たされました荻原委員長,菊池副委員長,楽木事務局長,そしてガイドライン作成にご尽力いただきました作成委員,リエゾン学会委員,査読委員,評価委員の方々に厚く御礼申し上げます。高血圧は最も頻度の高い疾患ではありますが,社会の高齢化や生活習慣を反映して種々合併症や臓器障害などを伴う症例が増加し,それだけ高血圧の治療が複雑化しているともいえます。本ガイドラインはわが国における現時点での標準的な治療法について述べられたものでありますが,今後もわが国や欧米で行われております大規模臨床試験の成績に基づいて改訂されるべきものであります。本ガイドラインが高血圧診療に携わる多くの先生方に活用され,高血圧治療の進歩に役立つことを願っております。
2009年1月