(旧版)高血圧治療ガイドライン2009
序文
日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会
委員長荻原俊男副委員長菊池健次郎
高血圧治療ガイドライン2004年版(JSH2004)の改訂版JSH2009が出版の運びとなりました。今回の改訂に御協力いただきました作成委員,リエゾン学会委員,査読委員,評価委員,他関係諸氏に深く感謝申し上げます。
高血圧治療ガイドラインは,これまでにJSH2000(故藤島正敏作成委員長),JSH2004(猿田享男作成委員長)が出版されており,今回は第3版となります。今回の改訂にあたっては,「一般医家の日常診療に有用でプラクティカルであることを基本方針とし,加えて,アカデミックかつ我が国における最新のエビデンスをも取り入れたアップデイトな内容」とすることを重視致しました。
今回,最も配慮しましたことは,作成プロセスをオープンにすることでした。原案執筆段階から項目毎に3〜4人の専門家の査読委員,関連学会からのリエゾン委員に加わって頂き,厳重なクリティシズムを受けました。作成委員会の委員総数は,JSH2004の際の約3倍に達しました。さらに,日本高血圧学会の全会員への事前アンケートと原案の作成段階での複数回の意見募集など,学会の総力を挙げてのガイドライン作成でした。
また,評価委員のご意見をガイドラインに反映させるために,AGREE(Appraisal for Guidelines for Research and Evaluation Instrument)研究トラストが作成した評価システムを導入し,ガイドライン作成段階でご評価をいただきました。評価委員は多分野の専門家の方にお願い致しました。一方,ガイドラインは広く国民の利益にかなうもので,患者の価値観や好みをも考慮すべきとされており,このような観点から,患者の視点から内容を検討していただくための委員にも参画いただきました。さらに,日本医師会のご協力を仰ぐと共に,原案に対する一般医家による事前使用モニタリングや学会ホームページでの意見募集など,実地診療の現場の意見を反映するように努めました。
本ガイドラインの目的は,一般医家が日常診療で最も高頻度に遭遇する高血圧患者に最適な診療を提供するための標準的な指針とその根拠を示すことにあります。本学会の総力を挙げて作成された本ガイドラインは一般医家の高血圧診療における治療方針の決定,治療内容の向上に大きく貢献するものと確信いたします。一方,最近,日本人を対象にした大規模臨床試験が行われておりますが,エビデンスの蓄積はいまだ充分とは言い難い状況にあります。したがって,実際の高血圧診療においては,治療方針は患者個々の病態や背景因子を勘案して,主治医の裁量によって決定されるもので,医師の裁量を拘束するものではありません。また,本ガイドラインは,医事紛争や医療訴訟における判断基準を示すものではありません。
本ガイドラインは,国内外の最新のエビデンスを踏まえて改訂されたものですが,現在進行中の大規模臨床試験は本邦におけるものでも複数あり,それらの成果を踏まえて数年後には更なる修正,改訂が必要になると考えられます。我が国の高血圧患者数は,現在約4000万人と推定されています。高血圧は心血管病,特に脳卒中の最大の危険因子であり,その予防・治療は全世界的な課題と言えます。本邦においては高血圧,心血管病の発症にかかわる高食塩摂取状況の持続に加え,内臓肥満,運動不足などに起因するメタボリックシンドロームや糖尿病の急激な増加,さらに慢性腎臓病(CKD)の増加などが大きな問題となっています。本ガイドラインが高血圧診療に携わる一般医家に有効に活用され,高血圧管理の進歩ならびに心血管病抑制に大きく寄与することを心から念願して止みません。
2009年1月