(旧版)高血圧治療ガイドライン2004
第11章 二次性高血圧 |
4)血管性(脈管性)高血圧
(1) 大動脈炎症候群
本症は本邦の特に女性に頻度が高く、脈拍・血圧の左右差、頸部あるいは腹部血管雑音の聴取、頸動脈洞反射の亢進などを主要所見とする481)。本症の約4割に高血圧を認めるが482)、その発生機序は単一ではなく、1)腎血管性高血圧、2)大動脈狭窄性高血圧(異型大動脈縮窄症)、3)大動脈弁閉鎖不全性高血圧、4)大動脈壁硬化性高血圧などの各要素がある481)。本症の約20%に腎血管性高血圧を認める483)。両側鎖骨下動脈狭窄を伴う例では上肢の血圧は大動脈圧より低値を示し、過小評価されるので注意を要する。経皮経管的腎動脈形成術(PTRA)は低侵襲性で有効であるが、線維筋性過形成などに比し本症では再狭窄率が高く、長期有効率は約50%と、外科的バイパス術が成功した場合の長期有効率約90%に比し低率である483)。異型大動脈縮窄症や大動脈弁閉鎖不全症は外科手術の対象となる。特に後者は本症の予後を規定する重要な合併症であり、適切な降圧薬治療下に手術適応を決定する484)。本症における外科治療は、活動性炎症の消退を待った後、あるいは副腎皮質ステロイド薬によって炎症を抑制した後に実施されるのが望ましい。本邦の手術例の長期予後は概して良好であるが、特に吻合部動脈瘤の発生に注意を要する485)。
本症の降圧薬療法は、腎血管性高血圧あるいは本態性高血圧に準ずる。ただし、頸動脈に狭窄病変を有する例では脳血流量が低下している可能性があり、その降圧治療に際しては、脳血流に対する十分な配慮と注意が必要である。
(2) その他の血管炎性高血圧
大動脈炎症候群以外の血管炎症候群による高血圧としては、結節性多発動脈炎(PN)、全身性強皮症(PSS)などがある486)。PNでは腎動脈を含む全身の中小筋型動脈や細動脈の壊死性動脈炎が、PSSでは腎血管の攣縮が高血圧の成因に関与する。PNは急速進行性腎炎、PSSでは腎クリーゼ(悪性高血圧、腎不全)の経過をとることが少なくない。PSSを除くと急性期の死因は脳出血、心筋梗塞、心不全、腎不全などで、いずれも合併する高血圧と密接に関連するものであり、血圧管理の重要性を認識する必要がある。PSSを除くと急性期には副腎皮質ステロイド薬のパルス療法と免疫抑制薬の併用が行われる。血圧管理はPNでは急性腎不全、PSSでは悪性高血圧のそれに準ずるが、後者ではACE阻害薬やCa拮抗薬が著効を示す。
(3) 大動脈縮窄症
狭窄部より近位側の上肢の高血圧と遠位側の下肢の低血圧をきたし、上下肢収縮期血圧差は20〜30mmHg以上になる。近位側の高血圧に対して、原則として小児期に外科的治療による狭窄の解除ないしバルーンカテーテルによる血管形成術が適用され、より早期に処置することが良好な予後を規定するとされている487)。本症の高血圧の成因には、上半身の末梢血管抵抗の増加や大動脈のWindkessel作用の減弱などの機械的因子に加え、RA系や交感神経系の関与も知られている488)。術前の高血圧の持続期間によっては、修復後も長期間高血圧が持続する場合があり、その場合には病態に応じた降圧薬治療を行う。
(4) 心拍出量増加を伴う血管性高血圧
大動脈弁閉鎖不全症、動脈管開存症、動静脈瘻などでは、1回心拍出量の増加を主な機序として収縮期高血圧を呈する。
いずれも原疾患に対する治療を行うことにより高血圧は治癒する。