(旧版)高血圧治療ガイドライン2004

 
第11章 二次性高血圧


3)内分泌性高血圧

a 原発性アルドステロン症とその類似疾患

アルドステロンおよび/あるいは鉱質コルチコイド作用を有するデオキシコルチコステロン過剰に伴う、低レニン性、容量依存性高血圧と低K・低マグネシウム(Mg)血症、代謝性アルカローシスによる病態を呈する。自他覚症状としては、低K・低Mg血症に伴う口渇、多飲、多尿、四肢脱力感、テタニー症状、耐糖能異常、血清尿酸値は正常ないしは低値傾向を示す、などが見られる。

(1) 原発性アルドステロン症

本症は決して良性の経過をとる高血圧ではなく、脳血管障害、蛋白尿、腎不全などの標的臓器障害をしばしば伴う456,457)ので、早期診断、治療が重要である。

(1)外科的治療
腺腫または患側副腎の摘出が根本的治療法であるが、近年、従来の開腹手術に比し侵襲度が低く術後比較的早期に回復が期待できる腹腔鏡下手術が勧められている458)。手術により低K血症による脱力感、筋力低下は完治する。高血圧は60〜88%の症例で正常化する456,459)。高血圧歴が5年以上で、心血管合併症456,457)を伴っている例、本態性高血圧を合併している例、術前のスピロノラクトン(アルドステロン拮抗薬)に対する降圧反応が不良な例460)では術後も血圧は正常化せず、降圧薬の投与が必要となることがある456,460)。しかし、通常、術前に比し高血圧の程度は軽度になり、降圧薬による血圧管理は容易となる。
術前の3〜5週間461)にスピロノラクトンを1日50〜200mg投与して低K血症や代謝性アルカローシスを是正し、術中、術後の重篤な心室性不整脈の危険を抑制する。これが是正された場合には、スピロノラクトンを減量維持し、Ca拮抗薬を併用投与して血圧を正常化しておく。手術までの期間が長くなる場合には、当初よりスピロノラクトンは投与せず、副腎皮質からのアルドステロン分泌抑制作用のある462)Ca拮抗薬とKCl製剤あるいはトリアムテレンの投与により血圧と低K、低Mg血症をコントロールする462)。この方法は、後述する術後の選択的低アルドステロン症の発症を防止する上で推奨されている462)。術後の数週間は、特に術前にスピロノラクトンの大量、長期間投与が行われた例では、選択的低アルドステロン症による高K、低Na血症461,462,463)の出現をみることがあり、注意を要する。この場合は術後に血清Na、K値を繰り返し測定し、低Naおよび高K血症が出現した場合には、食塩摂取量の増加や生理食塩液の静脈内投与によるNa補給とK摂取制限、イオン交換樹脂による高K血症の是正を図る。また、腺腫の中にアルドステロンと同時にコルチゾールの自律性過剰分泌を伴う例があり、このうち術後1〜2年にわたり低血圧を呈し、糖質コルチコイドの補充投与が必要になる例もある464)

(2)内科的治療
手術を拒否する患者、糖質コルチコイド奏効性アルドステロン症患者やその他の理由で手術が不可能と判断される場合には内科的治療を選択する。
血圧、血清K値を定期的に観察しながら、(1) ピロノラクトン単独、(2) Ca拮抗薬とKCl製剤またはトリアムテレンの併用、(3) Ca拮抗薬と少量のスピロノラクトン併用465)、(4) 低K血症補正後にスピロノラクトンの減量とサイアザイド系利尿薬あるいはループ利尿薬の併用などが選択される。スピロノラクトン投与による血圧コントロール下においても約50%の例で脳血管障害などの心血管病を発症していることから、本薬によるこれら合併症の予防効果は不十分とする報告もある466)。スピロノラクトン単独治療により血清K値、血圧は正常化するが、アルドステロンの分泌は正常化せず、むしろ血清K値の上昇により血漿アルドステロン値は上昇することもある。また、本薬の単独、大量、長期投与時には男性では女性化乳房、女性では月経異常などの副作用が出現しうる。高度腎不全合併例ではスピロノラクトンやトリアムテレン投与により高K血症を招くことがあり、これら薬物の単独投与は禁忌である。近々本邦でも使用可能となるエプレレノンも有効と考えられるが、いまだ本症における使用成績は確立されていない。腎不全合併例では、Ca拮抗薬、ループ利尿薬(トラセミドは弱いながら抗アルドステロン作用を併せ持つ)を用い、血清K値が低い場合にはスピロノラクトンの少量(25mg)の併用も使用しうる。また、スピロノラクトン投与の中断は病態の再燃をきたす。
3β-水酸化ステロイド脱水素酵素阻害薬(トリロスタン)はアルドステロン生成阻害のほかコルチゾール合成も阻害するので、血清K値、コルチゾール値を観察しながら投与する。
糖質コルチコイド奏効性アルドステロン症は遺伝子異常による疾患で、低レニン性高アルドステロン症を示す。これに対しては、初期(短期間)には糖質コルチコイドであるデキサメタゾンが用いられるが、長期療法にはスピロノラクトンの比較的少量とCa拮抗薬の併用などが有効で副作用も少ない。

(2) 特発性アルドステロン症

片側性過形成によるアルドステロン症を除けば、特発性アルドステロン症に対する副腎摘出術の手術適応はない。
降圧薬の投与は、原発性アルドステロン症の内科的治療に準ずる。さらに本症ではアルドステロン分泌がRA系の支配を受けているのでARBやACE阻害薬を適宜併用する461)。3β-水酸化ステロイド脱水素酵素阻害薬は血清K値、コルチゾール値を観察しながら投与する。

(3) 先天性副腎皮質過形成

遺伝子異常による疾患で、17α-水酸化酵素欠損症(17α-OHD)と11β-水酸化酵素欠損症(11β-OHD)があり、両者ともACTH依存性で、前者は低あるいは正アルドステロンおよび鉱質コルチコイド作用を有するデオキシコルチコステロン(DOC)過剰、後者はDOC過剰により高血圧を発症する。高血圧と同時に17α-OHDでは二次性徴障害(男児では外性器の女性化、女性では原発性無月経)を、11β-OHDではアンドロゲン過剰による男性化現象(男性では性早熟、女性では陰核肥大など外性器の男性化)を伴う。本症には外科的手術適応はなく、内科的治療が行われるが、その方法は原発性アルドステロン症の内科的治療に準ずる。
 
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