(旧版)高血圧治療ガイドライン2004

 
第9章 特殊条件下高血圧


2)高血圧緊急症および切迫症

b 治療の原則

緊急症では入院治療が原則である。臓器障害や血管病変を有しており、必要以上の急速で過剰な降圧は臓器灌流圧の低下により脳梗塞、皮質黒内障、心筋梗塞、腎機能障害の進行などの虚血性障害を引き起こす可能性が高い。したがって、降圧の程度、速度が予測でき即時に調整可能な薬物や降圧方法を用いることが望ましい。一般的な降圧目標は緊急症の場合でもはじめの1時間以内に平均血圧で25%以上は降圧させず、次の2〜6時間で160/100〜110mmHgを目標とする104)。しかし、大動脈解離、急性心筋梗塞や以前には血圧が高くなかった例での高血圧性脳症(急性糸球体腎炎や子癇など)などでは、治療開始の血圧レベルおよび目標値も低くなる。初期降圧目標に達したら、内服薬を開始し、注射薬の用量を漸減しながら注射薬を中止する。
緊急症に対しては原則的に経静脈的に降圧を図る。観血的に血圧をモニターすることが望ましい。本邦で使用できる注射薬は少ないが、表9-4に用法・用量、効果発現・作用持続時間、副作用・注意点、および主な適応とともに示した。切迫症では内服薬によってコントロールできる場合が多い。Ca拮抗薬のニフェジピンカプセル内容物の投与やニカルジピン注射のワンショット静注は、過度の降圧や反射性頻脈をきたすことがあり、行わない。作用発現が比較的速いCa拮抗薬(短時間作用薬や中間型作用薬)の内服、ACE阻害薬、αβ遮断薬のラベタロール、β遮断薬、病態によってループ利尿薬の併用などを行う。カプトプリルは作用発現が速く、持続も比較的短いので調整しやすいが、悪性高血圧やレニン・アンジオテンシン(RA)系が亢進している脱水状態では過度の降圧をきたしうるので6.25〜12.5mgから始める。腎機能障害例では、ACE阻害薬投与1〜2日後より高カリウム(K)血症をきたしやすいので注意が必要である。両側性や単腎性の腎血管性高血圧例では腎不全が生じるので、疑わしい例では使用しないか、血清クレアチニン、K値の監視が必要である。


表9-4 高血圧緊急症に用いられる注射薬
薬 剤 用法・用量 効果発現 作用持続 副作用・注意点 主な適応
血管拡張薬
ニトロプルシド
・ナトリウム
持続静注
0.25〜2(4)μg/kg/分
瞬時 1〜2分 悪心、嘔吐、頻脈、高濃度・長時間投与でシアン中毒など。遮光が必要 ほとんどの緊急症。頭蓋内圧亢進や腎障害では要注意
ニトログリセリン 持続静注
5〜100μg/分
2〜5分 5〜10分 頭痛、嘔吐、頻脈、メトヘモグロビン血症、耐性が生じやすいなど。遮光が必要 急性冠症候群
ヒドララジン 静注
10〜20mg
10〜20分 3〜8時間 頻脈、顔面紅潮、頭痛、狭心症の増悪、持続性の低血圧など 子癇
筋注
10〜40mg
20〜30分 4〜6時間
ニカルジピン 持続静注
0.5〜6μg/kg/分
5〜10分 60分 頻脈、頭痛、顔面紅潮、局所の静脈炎など。
心不全では要注意
急性心不全を除くほとんどの緊急症。頭蓋内圧亢進や急性冠症候群では要注意
ジルチアセム 持続静注
5〜15μg/kg/分
5分以内 30分 徐脈、房室ブロック、洞停止など。不安定狭心症では低用量 急性心不全を除くほとんどの緊急症。
交感神経抑制薬
フェントラミン 静注
1〜10mg
初回静注後 0.5〜2mg/分で持続静注してもよい
1〜2分 3〜10分 頻脈、頭痛など 褐色細胞腫、カテコラミン過剰
プロフラノロール 静注2〜10mg(1mg/分)
→2〜4mg/4〜6時間ごと
    徐脈、房室ブロック、心不全など 他薬による頻脈抑制
心不全や体液の貯留がある場合や耐性が生じた場合にはフロセミドを併用する(主として文献42、104、373をもとに作成)。
 
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