(旧版)高血圧治療ガイドライン2004

 
第9章 特殊条件下高血圧


2)高血圧緊急症および切迫症

a 定義と分類

高血圧緊急症は単に血圧が異常に高いだけの状態ではなく、血圧の高度の上昇(多くは180/120mmHg以上)によって、脳、心、腎、大血管などの標的臓器に急速に障害が生じる切迫した病態である。そのため、緊急に降圧(必ずしも正常血圧までではない)が必要である。直ちに降圧を図るべき狭義の緊急症(emergency)と、数時間以内に降圧を図るべき切迫症(urgency)に分類されるが、厳密には分けられない場合もある42,373)。緊急症には、高血圧性脳症、急性大動脈解離を合併した高血圧、肺水腫を伴う高血圧性左心不全、重症高血圧を伴う急性心筋梗塞や不安定狭心症、褐色細胞腫クリーゼ、子癇などが該当する(表9-2)373)。なお、加速型高血圧-悪性高血圧は数時間以内に治療を開始すべき病態と考えられ、切迫症に含める。また、子癇や急性糸球体腎炎による高血圧性脳症、大動脈解離などでは、血圧が異常高値を示していなくても緊急降圧の対象となる。
早急に病態の把握を行い(表9-3)、緊急症または切迫症であるかを判断し、どのような薬物を用いるか、その投与法、降圧目標レベル、それに到達するのに要する時間などを決定する。しかし、緊急症の場合、評価にいたずらに時間を費やして治療開始が遅れてはならない。


表9-2 高血圧緊急症

乳頭浮腫を伴う加速型-悪性高血圧
脳血管
     高血圧性脳症
     重症高血圧を伴うアテローム血栓性脳梗塞
     頭蓋内出血
     くも膜下出血
     頭部外傷
     急性大動脈解離
     急性左心不全
     急性または切迫心筋梗塞
     冠動脈バイパス術後
     急性糸球体腎炎
     腎血管性高血圧
     膠原病の腎クリーゼ
     腎移植後の重症高血圧
カテコラミンの過剰
     褐色細胞腫のクリーゼ
     モノアミン酸化酵素阻害薬と食品・薬物との相互作用
     交感神経作動薬の使用(コカイン)
     降圧薬中断による反跳性高血圧
     脊髄損傷後の自動性反射亢進
子癇
手術に関連したもの
     緊急手術が必要な患者の重症高血圧
     術後の高血圧
     血管縫合部からの出血
重症火傷
重症鼻出血
血栓性血小板減少性紫斑病

加速型-悪性高血圧、周術期高血圧、反跳性高血圧、火傷、鼻出血などは、軽症であれば切迫症の範疇に入りうる。(文献373より)


表9-3 高血圧緊急症を疑った場合の病態把握のために必要なチェック項目

病歴、症状
     高血圧の診断・治療歴、交感神経作動薬ほかの服薬 頭痛、視力障害、神経系症状、悪心・嘔吐、胸・背部痛、心・呼吸器症状、乏尿、体重の変化など
身体所見
     血圧:拡張期血圧は120mmHg以上のことが多い、 左右差
     脈拍、呼吸、体温
     体液量の評価:脱水、浮腫、立位血圧測定など
     中枢神経系:意識障害、痙攣、片麻痺など
     眼底:線状~火炎状出血、軟性白斑、網膜浮腫、乳頭浮腫など
     頸部:頸静脈怒張、血管雑音など
     胸部:心拡大、心雑音、心不全所見など
     腹部:肝腫大、血管雑音、(拍動性)腫瘤など
     四肢:浮腫、動脈拍動など
緊急検査
     尿、血球検査
     血液生化学(尿素窒素、クレアチニン、電解質、糖、 LDH、CPKなど)
     動脈血ガス分析、心電図、胸部×線、腹部×線
     必要に応じ、心・腹部エコー図、頭部・胸部・腹部 CTスキャン
     必要に応じ、血漿レニン活性、アルドステロン濃度、 カテコラミン濃度測定
褐色細胞腫の疑いがあれば、少量のフェントラミン静注

 
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