(旧版)高血圧治療ガイドライン2004

 
第8章 高齢者高血圧


3)治療

a 高齢者高血圧の治療効果

60歳ないし70歳以上の高齢者高血圧(多くは収縮期血圧160mmHg以上あるいは拡張期血圧90mmHg以上)を利尿薬やβ遮断薬で治療した場合はプラセボと比較して有意に心血管病(特に脳血管障害)の発症を抑制することがEWPHE(European Working Party on High Blood Pressure in the Elderly Trial)337)、STOP-Hypertension338)、MRC II(Medical Research Council Trial of Treatment of Hypertension in Older Adults)339)など欧米における大規模臨床試験で証明されている。さらに収縮期高血圧(収縮期血圧160mmHg以上、拡張期血圧90または95mmHg未満)を対象とした大規模臨床試験ではSHEP(利尿薬を第一次薬)340)、Syst-Eur341)、Syst-China(Ca拮抗薬ニトレンジピンを第一次薬)342)があり、いずれも有効性が証明されている。特にSTONE試験(長時間作用型ニフェジピンを第一次薬)343)、Syst-China試験は日本人と人種的に近い中国人を対象として高齢者高血圧に対するCa拮抗薬の有用性を証明したものであり、脳血管障害を有意に抑制している事実は本邦においても参考になる。
表8-1に高齢者高血圧を対象とした代表的な介入試験の概要を示した。収縮期血圧160mmHg以上を対象としているが、その治療前平均値は168〜197mmHgであり、到達した収縮期血圧は大部分が140〜150mmHgである。
60歳以上の高齢者高血圧治療に対する9つの主要大規模臨床試験のメタアナリシスによると、降圧薬治療により全死亡12%、脳卒中死36%、虚血性心疾患死亡25%といずれも有意の抑制、また脳血管障害発症35%、虚血性心疾患発症は15%の有意な抑制がみられている344)。同様の事実は最近のメタアナリシスでも確認されている345)
EWPHEやSyst-Eur試験においては統計学的に80歳以上での有用性は明確ではない337,341)。しかし、報告されている大規模臨床試験のうち、80歳以上のいわゆる超高齢者のみについてのメタアナリシスの結果では高血圧治療により脳卒中34%、心事故、心不全それぞれ22%、39%の有意な発症抑制が得られたが、心血管病死亡に対しては有意な抑制が認められていない345)。超高齢者に対しては現在HYVET(the Hypertension in the Very Elderly Trial)が行われており、治療の有用性がさらに明らかになるであろう。
本邦における高齢者高血圧の大規模臨床試験として、NICS-EH(National Intervention Cooperative Study in Elderly Hypertensives)は、60歳以上の高齢者高血圧を対象にCa拮抗薬(ニカルジピン徐放錠)と利尿薬(トリクロルメチアジド)の二重盲検試験で5年間追跡された。心血管合併症はCa拮抗薬群27.8人/1,000人・年と利尿薬群26.8人/1,000人・年と比べて有意差がない165)。NICS-EHにおける心血管合併症発症頻度は欧米におけるSHEP340)やSyst-Eur341)試験の結果に近く、これら薬物の有効性を示すものである。ただしNICS-EHでは脳卒中と心筋梗塞の比率は4倍程度で本邦では脳卒中が多いことが示されている165)。また医学的脱落率からみた忍容性はCa拮抗薬が高い傾向が示されている346)
PATE-Hypertensionは60歳以上の治療中の高齢高血圧患者を3年間経過観察しCa拮抗薬(マニジピン)とACE阻害薬(デラプリル)を単独療法で比較した結果、心血管合併症発症率はCa拮抗薬群19.7人/1,000人・年、ACE阻害薬22.5人/1,000人・年であり、両群間に有意差は認められず、その頻度はSyst-Eurの成績に近似しており、両薬物の有用性を示すものと考えられる。ただし、ACE阻害薬群の中止率はCa拮抗薬群に比し有意に高く、多くは咳によるものであった347)。STOP-Hypertension 2ではCa拮抗薬とACE阻害薬の有用性が報告され、ANBP-2(second Australian National Blood Pressure Study)では特に男性においてACE阻害薬の有用性が報告されている348)。アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)についてはSCOPE(Study on Cognition and Prognosis in the Elderly)試験が報告され、非致死性脳卒中発症は対照群より有意に抑制された117)


表8-1 高齢者高血圧に対する主な臨床試験(1)(プラセボ群との比較)
  EWPHE HEP SHEP STOP MRCll STONE Syst-Eur Syst-China
対象年齢(歳)  ≧60 60〜79 ≧60 70〜84 65〜74 60〜79 ≧60 ≧60
症例数  840 884 4,736 1,627 4,396 1,632 4,695 2,394
エントリー
血圧
収縮期血圧(mmHg) 160〜239 170〜280 160〜219 180〜230 160〜209 ≧160 160〜219 160〜219
& & & & &/or & & & &
拡張期血圧(mmHg) 90〜119 105〜120 <90 105〜120 <115 ≧96 <95 <95
治療前血圧(mmHg) 180/101 197/100 177/77 195/102 185/91 168/98 174/86 170/86
降圧薬(:二次併用薬) 利尿薬
メチルドパ
β遮断薬
利尿薬
メチルドパ
利尿薬
β遮断薬
(1)β遮断薬
(2)利尿薬
(1)β遮断薬
(2)利尿薬
Ca拮抗薬
ACE阻害薬
利尿薬
Ca拮抗薬
ACE阻害薬
利尿薬
Ca拮抗薬
ACE阻害薬
利尿薬
試験方法 二重盲検 オープン 二重盲検 二重盲検 単盲検 単盲検 二重盲検 単盲検
追跡期間(年) 4.7 4.4 4.5 2.1 5.8 3 2 4
治療後血圧
(mmHg)
治療群 150/85 162/77 144/68 167/87 152/77 146/85 151/79 150/81
対照群 171/95 180/88 155/71 186/99 166/83 155/90 161/84 159/84
治療効果
(相対危険度)
脳血管障害 0.64 0.58* 0.67* 0.53* 0.75* 0.43* 0.58* 0.62*
冠動脈疾患 0.82 1.03 0.73* 0.87 0.81   0.70 1.06
心不全 0.78 0.68 0.45* 0.49*   0.32 0.71 0.42
全心臓血管疾患 0.71* 0.76* 0.68* 0.60* 0.83* 0.40* 0.69* 0.63*
*有意差あり、心筋梗塞のみ、HEP、MRCllの血圧は推定値
STOP-Hypertension
 
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