(旧版)高血圧治療ガイドライン2004
第8章 高齢者高血圧 |
2)高齢者高血圧の基準と診断
疫学調査のメタアナリシスによれば収縮期血圧115mmHg、拡張期血圧75mmHgから血圧上昇とともに心血管リスクは増加しており、この関係は高齢になるに従い勾配は鈍くなるものの年齢と関係せず、いずれの年代でも認められる14)。したがって高齢者においても高血圧の基準は一般成人と同様140/90mmHg以上とする。一方、高血圧による心血管リスクの増加について閾値があるとする疫学研究も多い。Framingham研究では、65歳以上の心血管合併症を有する群の18年間の経過観察で、明らかなJ型現象を認め、140〜150mmHg群がリスク最低であった331)。Portら332)のFramingham研究再解析でも、加齢に伴い心血管リスク域値の右方シフトが認められている。
本邦の疫学研究における高齢者の血圧と心血管合併症発症リスクの関係については、代表的なものとして久山町研究、NIPPON DATA 80、端野・壮瞥町研究がある。久山町研究では、70歳代までは140mmHg以上で心血管合併症発症リスクが上昇するものの、80歳代ではこの関係は認められていない13)。NIPPON DATA80では60歳までは血圧とリスクが相関するものの、61歳以上では収縮期血圧140〜160mmHg群の心血管病死亡率が最低であり、J型カーブ現象となっている333)。端野・壮瞥町の疫学調査では60歳以上を対象にした場合、160mmHg以上の群で予後不良となることが挙げられている334)。
いずれにしてもこれらの成績は疫学研究から得られた結果であり、降圧薬治療の介入が有用な高血圧の基準を示すものではない。実際、これまでに欧米あるいは本邦において行われた高齢者高血圧に対する介入試験の多くは160mmHg以上または95mmHg以上で実施されており、140/90mmHg以上という値がただちに降圧薬治療の対象血圧値となるわけではない。
高齢者高血圧では、動揺性が著しいために診断、治療に際しては日を変えて繰り返し血圧を測定し、常に高いことを確認する必要がある。起立性低血圧の頻度が増すため、立位血圧(起立直後3分以内)の測定が重要で、治療開始前、治療開始後に必ず行う。触診法による血圧測定を併用し、偽性高血圧や聴診間隙を見逃さないようにする。動揺性の問題や、白衣高血圧、早朝血圧上昇、仮面高血圧、non-dipperの判定には24時間自由行動下血圧測定(ABPM)が有用である。non-dipper型、extreme dipper型、早朝高血圧では無症候性脳梗塞(ラクナ)を伴う頻度が高いことが知られている69,335)。日常臨床においては家庭血圧測定が有用である336)。
二次性高血圧、特に内分泌性高血圧は稀であるが、粥状硬化による腎血管性高血圧がみられることがあり、急激な血圧上昇や、ACE阻害薬, ARBで急速な腎機能低下がみられた場合は、両側性腎血管性高血圧を疑う。腹部血管雑音の聴取が参考となる。
脳、心、腎における標的臓器障害の有無は一般成人の高血圧と同様、治療方針、薬物の選択上重要である。高齢者において特に重要なことは非定型性、多病性であり、潜在的な合併症の発見に努める。呼吸器系疾患(特に閉塞性肺疾患)や代謝合併症(糖尿病、高脂血症、低K血症)などの有無は降圧薬の選択上、重要である。