(旧版)高血圧治療ガイドライン2004
第7章 他疾患を合併する高血圧 |
6)痛風・高尿酸血症
高尿酸血症の臨床的意義に関しては種々の論議があるが、大規模な住民追跡調査において尿酸値上昇は心血管疾患死と相関し319)、軽症・中等症高血圧では血圧管理が良好であっても尿酸値が上昇すると(利尿薬使用の有無にかかわらず)心血管事故発生と相関したと報告されている320)。したがって、痛風の治療では、高尿酸血症は痛風関節炎発症のみならず心血管疾患のリスクとしての管理の対象として対応することが妥当である。
尿酸はプリン体の分解過程で生じ、腎尿細管で排泄と再吸収が行われ、高尿酸血症は機序別に尿酸産生促進型、尿酸排泄低下型および両者の混合型に分けられる。高尿酸血症は、(1) 高血圧の腎障害の要因となり、(2) インスリン抵抗性などの代謝異常の指標(高インスリン血症は腎Na再吸収促進、尿酸排泄低下をきたす)としての意義が注目されている。
痛風・高尿酸血症合併高血圧における生活習慣の修正としては、(1) 肥満是正(体重増加とともに尿酸値上昇、減量により低下)、(2) 飲酒制限(特にビールはプリン体の含有量が多いため、避ける。飲酒量の増加に伴い痛風発症のリスクが上昇すると報告されている321))、(3) 水分摂取の励行(乏尿では尿酸の再吸収が促進されるが、尿量増加は尿酸の尿中排泄を促す)、(4) 適度な運動による血圧低下とインスリン感受性の改善を図る、ただし激しい運動は避ける(尿酸値の上昇)、(5) 食塩摂取制限(血圧低下と同時に利尿薬の使用量を抑制)、(6) ストレス管理が重要である。
高尿酸血症合併高血圧では降圧薬別に尿酸代謝への影響が異なるため、薬剤と用量に注意する。Ca拮抗薬、ACE阻害薬およびα遮断薬は尿酸値に変動をきたさないとする報告が多い。ARBも大部分、尿酸値に影響しない。ロサルタンは軽度であるが尿酸の尿中排泄を増加させ、尿酸値は低下する。ロサルタンと利尿薬との併用でも尿酸値の上昇が抑制される傾向がみられている。β遮断薬は軽度に上昇させるとされる。
サイアザイド系利尿薬は痛風およびその素因がある症例では急性痛風発作を誘発する危険性があり、禁忌として用いない。サイアザイド系利尿薬は低用量であれば尿酸値の上昇度は低いとされる。高齢者収縮期高血圧を対象としたSHEP研究(Systolic Hypertension in the Elderly Program)ではクロルタリドン12.5〜25mg/日を初期治療薬として用い、脳卒中および主要な心血管イベントを抑制した。しかし、同研究では利尿薬群の血清尿酸値が上昇し、その上昇が1mg/dl未満であれば、1mg/dl以上に上昇した利尿薬群と比較して冠動脈疾患の事故のハザード比は0.58と低下したとされている322)。したがって、これらの成績からは痛風でなくとも高尿酸血症では利尿薬を避け、また高尿酸血症で使用する場合、少量を用いることが望まれる。
高尿酸血症合併高血圧の降圧薬治療は、利尿薬の長期使用が必要な場合あるいは痛風の素因がある場合(通常、使用しないが)、既述の対策に加え尿酸が溶解しやすいように尿量の保持とともに尿アルカリ化薬を用い、高尿酸血症治療薬(尿酸合成阻害薬、排泄促進薬)を併用する。痛風における痛風発作と血清尿酸値との関係をみると、4.6〜6.6mg/dlが至適範囲であると報告されている323)。日本痛風・核酸代謝学会の高尿酸血症・痛風の治療ガイドラインでは高尿酸血症の基準を血清尿酸値7.0mg/dl以上として、6.0mg/dl以下に管理することが望ましいとしている。高血圧では無症候性であっても8.0mg/dl以上であれば、高尿酸血症治療薬による治療を開始することを推奨している324)。