(旧版)高血圧治療ガイドライン2004

 
第7章 他疾患を合併する高血圧


5)気管支喘息および慢性閉塞性肺疾患

気管支喘息および慢性閉塞性肺疾患合併患者では、高血圧と同様に生活習慣の修正が重要である。喫煙は慢性気管支炎の発症・増悪に関与し、気管支喘息発作の誘因となり、慢性閉塞性肺疾患を悪化させる。一方、禁煙により症状はしばしば好転する。著しい体重増加は酸素需要を増すが、肥満高血圧では体重管理は降圧と同時に呼吸機能を改善するため、減量を図る必要がある。過剰な食塩摂取は気管支過敏性を亢進させる可能性があり(喘息の悪化)、血圧のみならず喘息管理上、食塩制限を行う。喘息患者では運動により喘息発作を誘発(運動誘発喘息)することがあり、特に寒冷時の運動を避け、非発作時にウォームアップを緩徐に行い急激な運動を避けることが重要である。
降圧薬の選択は、(1) 高血圧と呼吸器疾患の双方の病態への影響と、(2) 両疾患治療薬の薬物相互作用を考慮して行い、(3) 血圧管理と同時に呼吸器疾患の病状に注意する。ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬、非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬はともに喘息患者の呼吸機能への悪影響は少ない。Ca拮抗薬による低換気領域の血管拡張による肺シャント量の増加(血中酸素分圧低下)、横隔膜運動(呼吸筋)抑制の臨床的意義は低く、したがってこれらは呼吸器疾患患者において使用される。ARBは気管支喘息を合併する高血圧において咳嗽の増悪および呼吸機能の抑制はなく、気管支反応亢進を抑制したと報告され317)、安全性の高い降圧薬といえる。一方、ACE阻害薬は喘息症状に変化をきたさず、換気機能に影響しないとされてきた。しかし、喘息では気道炎症を伴うことがあり、ACE阻害薬が気管支過敏性を高め咳の頻度を増すため、その使用は必ずしも推奨できない。老年者肺炎の大部分は不顕性誤嚥が関与し、ACE阻害薬は誤嚥性肺炎の頻度を低下させるとされるが、誤嚥性肺炎の予防における有効性は確認されていない。利尿薬は喘息を含め慢性呼吸器疾患合併例において使用可能とされてきた。しかし、慢性呼吸器疾患では気管支分泌物の除去に水分補給が効果的であり、利尿薬は気管支分泌物の粘稠度を高め、病態を悪化させる危険性がある。さらに利尿薬によるRA系の賦活化は肺血管床を収縮させ、低酸素血症を助長する可能性がある318)。したがって、慢性呼吸器疾患患者に用いる場合、利尿薬は少量を用い(特に過量使用を避け)、同時に水分補給に注意する。なお、β2刺激薬服用中に利尿薬を用い低K血症をきたした場合、サイアザイド系利尿薬とカリウム保持性利尿薬を併用する。α遮断薬は慢性閉塞性肺疾患および気管支喘息を合併する高血圧において呼吸機能を抑制せず、したがって安全に使用される降圧薬として推奨されている。
一方、β遮断薬は原則的に喘息および慢性閉塞性肺疾患において禁忌として用いない。気管支平滑筋β2受容体遮断が気道抵抗の上昇をきたし、これが悪化の機序と考えられている。β1選択性β遮断薬であっても、軽度ながらβ2受容体遮断作用を有しているため使用しない。β遮断薬の点眼薬であっても呼吸器疾患例において呼吸器系の事故が発生したとされている。なお、呼吸器疾患で交感神経刺激薬による気管支拡張効果をβ遮断薬が減少させ、また、β遮断薬によって血管系β2受容体が遮断されているため、末梢血管系α受容体刺激効果を増し、血圧上昇をきたすことがある。
 
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