(旧版)高血圧治療ガイドライン2004

 
第6章 臓器障害を合併する高血圧


3)腎疾患

d 降圧薬治療(図6-3)

血圧が高ければ高いほど腎機能の低下速度は速く244)、腎不全では血圧コントロールが最も重要である。MDRD研究においては血圧の通常コントロール群よりも厳格コントロール群で腎機能障害の進展が遅いことが示された265)。また、11の無作為化比較試験のメタアナリシスによると、収縮期血圧130mmHg未満で末期腎不全の発症や血清クレアチニン値の倍増が抑制されたとしている266)。したがって、慢性腎疾患では降圧目標を130/80mmHg未満とすべきである。さらに、MDRD研究265)によると、尿蛋白1g/日以上のものでは125/75mmHg未満を目標にすべきである。一方、アフリカ系米国人の腎硬化症を対象としたAASK研究ではβ遮断薬、Ca拮抗薬、ACE阻害薬を基礎薬として、かつ、降圧目標を通常と厳格の二つに分けて治療している267)。腎機能の低下率は降圧レベルの違いによる差はみられなかったものの、ACE阻害薬群ではCa拮抗薬よりも有意に低かった。ACE阻害薬の腎保護効果は特に尿蛋白の多い症例、または腎機能が低下している(GFR<40ml/分)例で顕著であった。
蛋白尿は糸球体や血管障害の指標となるだけではなく、尿蛋白それ自体が腎機能を悪化させると考えられている268,269,270)。実際、尿蛋白を減少させることが腎機能障害の進展抑制効果をもたらすと報告されている271)。この効果は血圧とは独立したものである。したがって、尿蛋白あるいは尿中微量アルブミン排泄量を可能な限り正常に近づけることが重要である。この目的のためには、血圧の厳格な管理とともに、ACE阻害薬やARBの投与が必要となる。NKFのガイドラインでは糖尿病性腎症での尿中アルブミン排泄量の到達目標を、30mg/gCr未満、非糖尿病性での尿蛋白排泄量の到達目標を200mg/gCr未満としている272)
RA系の抑制は糖尿病、非糖尿病に限らず腎障害進展阻止に有用である273,274,275,276)。特に、尿蛋白の多い例で有効性に優れているが、メタアナリシスによるとACE阻害薬の腎保護効果は降圧効果や尿蛋白減少効果のみでは説明できないとされている273,275,276)。RA系抑制薬の降圧効果と尿蛋白減少効果に関する用量の間には乖離が見られている277)。したがって、血圧とともに尿蛋白(アルブミン)を指標にして用量設定をする。実際、IRMA2においてはイルベサルタン150mgに比較して300mg投与群で微量アルブミン尿から顕性腎症に移行する割合が低かった274)。また、非糖尿病性腎症でACE阻害薬とARBの併用が単独療法に比べて有効との報告がある278)
RA系抑制薬は全身血圧を降下させるとともに輸出細動脈を拡張させて糸球体高血圧を是正するため、GFRが低下することがある。しかし、この低下は腎組織傷害の進展を示すものではなく、投与を中止すればGFRが元の値に戻ることからも機能的変化である279)。初期に腎機能が低下した例でむしろ腎機能は長期にわたって保持されるという報告もあるので、血清クレアチニン値の軽度(〜30%または1mg/dl)の上昇は慎重に経過をみればよい。腎機能の低下は通常投与後数日で明らかになるので、投与前と投与後2週間(できれば1週間)以内に血清クレアチニン値を検査する。腎機能の悪化が見られたときには、腎動脈狭窄などの原因を検索する280)。また、血清カリウム(K)値が上昇することもある。その対策としては、利尿薬の併用、重炭酸ナトリウムの投与などがあげられる280,281)。非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は腎機能を悪化させ血清Kを上昇させるので投与を避ける。進行した腎障害ではRA系抑制薬の副作用が出現しやすい。一方、進行した腎障害患者ほどRA系抑制薬の効果が大きいとされている267,273,275,276)。したがって、血清クレアチニン値が2mg/dl以上の場合であっても血清クレアチニン値やK値に注意しながら少量から投与するのがよい。また、一部を除くACE阻害薬は腎排泄性なので、腎機能低下例では用量調節が必要である。一方、ARBは胆汁排泄型であるので用量の調節の必要性は少ない。
腎障害患者におけるRA系抑制薬の有効性は多くの臨床試験が示すところであり、本症ではACE阻害薬またはARBが第一次薬となる。いくつかの試験で、長時間作用型Ca拮抗薬はACE阻害薬と同等の効果を有すると報告されている168,282)が、その特徴は病態にかかわらない強力な降圧効果による腎保護作用である82)。腎機能障害患者では降圧目標を達成するのに多剤併用療法が必要とされる244)。したがって、早期からCa拮抗薬などを併用して十分な降圧を図る。また、RA系抑制薬の降圧効果や尿蛋白減少効果は減塩によって増強されるので、利尿薬の併用もしばしば必要となる。少量のサイアザイド系利尿薬が有効であるが、血清クレアチニン値が2.0mg/dl以上ではループ利尿薬を用いる。強力な利尿薬治療中は低K血症などの電解質異常や脱水に注意する。最近、アルドステロン拮抗薬が尿蛋白を減少させるとの報告がなされている283,284)が、高K血症の危険があるため、腎障害患者に投与する場合はその適応も含め極めて慎重に行うべきである。


図6-3 慢性腎疾患を合併する高血圧の治療計画

図6-3 慢性腎疾患を合併する高血圧の治療計画
 
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