(旧版)高血圧治療ガイドライン2004

 
第6章 臓器障害を合併する高血圧


2)心疾患

b 降圧薬を用いた心不全治療

欧米の疫学研究では、高血圧は心不全の基礎疾患として最も頻度が高いことが示されているが、本邦では研究がない。また欧米の大規模臨床試験の成績では、降圧治療により高血圧患者における心不全発症率が減少することが明らかにされている227)。一方、心不全患者ではしばしば血圧が正常か低い症例が多い。したがって、心不全における降圧薬の使用は必ずしも降圧が目的ではなく、心不全患者のQOLや予後を改善するために用いられることに主眼がおかれる。

(1) 左室収縮機能不全による心不全

RA系抑制薬は心不全症状の有無に関わらず、また左室機能障害の有無に関わらず、慢性心不全および心筋梗塞後の長期予後を改善し心不全による入院頻度を減少させる225,226,228,229,230,231,232,233)。β遮断薬は症状の有無に関わらず左室機能障害を伴う心不全患者の予後を改善し入院頻度を減少させる220,234,235,236,237)。また、臓器うっ血の治療や予防には利尿薬を用いる。したがって、RA系抑制薬+β遮断薬+利尿薬の併用療法が心不全治療の標準的治療である238)。さらにアルドステロン拮抗薬は標準的治療を受けている重症心不全患者の予後をより改善させる182,226)
大規模臨床試験で心不全の予後を改善することが示されているRA系抑制薬やβ遮断薬の投与量は本邦の高血圧治療に用いられる投与量よりも多い。しかし、心不全ではRA系が活性化されているためRA系抑制薬の降圧効果が大きいので、少量(例えば常用量の1/4〜1/2錠)から開始し、低血圧や腎機能低下などの副作用がないことを確かめながら漸増する。またβ遮断薬は心不全の重症度に関わらずRA系抑制薬を使用した上でできるだけ導入を試みるべきであるが、心不全を増悪させることがあるため導入にあたっては細心の注意を要する。低心機能症例においてはごく少量(高血圧治療の用量の1/8〜1/4)から開始し、心不全、徐脈、低血圧がないことを確認しながらゆっくりと増量する。
左室収縮機能不全による心不全を合併する高血圧患者では、心不全の治療のために高血圧治療が重要である。心不全での左室収縮機能は後負荷に強く影響されるので、高血圧が左室収縮機能を抑制し、心不全を増悪させるからである。また高血圧は左室リモデリングを促進し、心筋障害を進展させるので、長期予後を改善するためにも高血圧治療が重要である。アムロジピンは、心不全患者の予後を増悪させないことが明らかにされている109,239)。したがって、標準的心不全治療に用いる降圧薬で十分な降圧効果が得られない場合には、長時間作用型ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬を追加する。

(2) 拡張機能不全による心不全

心不全による入院患者の半数近くの症例において、収縮機能は正常で、拡張機能障害が心不全の主な病態であることが知られてきた。基礎疾患としては高血圧性心疾患が最も多く、高齢者とくに女性に頻度が高い。高血圧性心疾患患者では、心肥大・心筋線維化によって早期から左室拡張機能の障害が認められる。したがって高血圧治療は心肥大・心筋線維化を軽減し、拡張機能障害を改善することが期待される。また、しばしば頻脈とくに心房細動が心不全の誘因となるため、その予防・適切な心拍数コントロールが重要である。また、潜在的虚血性心疾患による拡張障害の可能性も考慮する。拡張不全による心不全の治療については報告があまりないが、ARBは収縮能が保たれた心不全患者の入院頻度を減少させる233)

 
ページトップへ

ガイドライン解説

close-ico
カテゴリで探す
五十音で探す

診療ガイドライン検索

close-ico
カテゴリで探す
五十音で探す