(旧版)高血圧治療ガイドライン2004

 
第6章 臓器障害を合併する高血圧


2)心疾患

a 虚血性心疾患

高血圧は虚血性心疾患の発症率を増加させるが、利尿薬やβ遮断薬を主体にした従来の降圧薬治療では、虚血性心疾患の発症率はわずかに減少しているにとどまっている213)。降圧薬治療により脳卒中の頻度は著しく減少しているので、その理由としては、虚血性心疾患の発症には高血圧以外の危険因子の影響が相対的により大きい可能性がある。最近の研究によりCa拮抗薬やレニン・アンジオテンシン(RA)系抑制薬(ACE阻害薬、ARB)も虚血性心疾患の発症率を減少させることが示唆されている107,174,214,215)。本邦における研究でも少数例ではあるがARBやCa拮抗薬が冠動脈疾患を有する患者の心血管病をACE阻害薬と同等に予防しうることが示されている169,216,217)。虚血性心疾患の発症や進展を抑制するためには、高血圧治療と同時に、その他の危険因子の治療が重要である。特にHMG-CoA還元酵素阻害薬による高LDLコレステロール血症の治療が、虚血性心疾患による心事故の一次予防、二次予防に非常に有効であることが示されている218)。また少量のアスピリン79)や禁煙も効果がある。

(1) 狭心症

狭心症を合併する高血圧では、抗狭心症作用をもつCa拮抗薬とβ遮断薬が第一次薬になる。狭心症の原因には冠動脈の高度狭窄と冠攣縮があり、両者がともに関与している場合も少なくない。冠攣縮による狭心症にはCa拮抗薬が著効を示すので、冠攣縮の関与が考えられる安静あるいは安静・労作性狭心症を合併する高血圧では、降圧薬としてCa拮抗薬が第一選択になる。一方、器質的冠動脈狭窄による労作性狭心症には、β遮断薬とCa拮抗薬のどちらも有効である。本邦では冠攣縮が関与する狭心症の頻度が高く、β遮断薬は冠攣縮を増悪する可能性が示唆されているので、機序が不明な場合にはCa拮抗薬あるいはCa拮抗薬とβ遮断薬の併用が勧められる。
Ca拮抗薬の中では、どの薬物も抗狭心症薬として有効であるが、長時間作用型Ca拮抗薬が推奨される。その主な理由は、1)降圧に伴う反射性頻脈が少ない、2)狭心症発作の好発時間に合わせた、投薬時間を考えなくてよいからである。短時間作用型Ca拮抗薬については、高度の冠動脈狭窄がある患者では、急激な降圧や反射性頻脈が生ずると心筋虚血が誘発される危険性がある。一方、長時間作用型Ca拮抗薬の中には十分な抗狭心症効果発現までに1〜2週間を要するものがある。その場合には最初だけ即効性のある短時間作用型の薬物との併用が必要になる。この点は緩徐な効果発現でよい高血圧治療と異なる。
β遮断薬の抗狭心症作用は主に徐脈作用によるので、抗狭心症薬としては内因性交感神経刺激作用のない薬物を選択する。抗狭心症効果についてはβ1選択薬と非選択薬間に大きな差異はない。
高度の冠動脈狭窄による狭心症では、降圧薬による過度の降圧が狭心症発作の誘因になるため注意が必要である。冠インターベンションの適応のあるものはバイパス手術または経皮的血管形成術により、狭心症状・虚血所見の改善を図ったうえで十分な降圧を図る。

(2) 陳旧性心筋梗塞

欧米における大規模臨床試験の成績では、内因性交感神経刺激作用のないβ遮断薬が陳旧性心筋梗塞患者の心筋梗塞再発や突然死を有意に抑制することが明らかにされている219,220)。本邦ではβ遮断薬の使用頻度が少ないが、その理由の一つは冠攣縮への危惧である。しかし、高度の器質的冠動脈病変を有する陳旧性心筋梗塞患者では、β遮断薬が選択薬の一つである。一方、長時間作用型Ca拮抗薬は予後を悪化させることはない109)。また、Ca拮抗薬ではジルチアゼムが心不全のない非Q波梗塞患者の心筋梗塞再発を減少させたという成績がある221)。本邦の多数例の追跡観察研究でも、β遮断薬や長時間作用型Ca拮抗薬は心事故発生率を減少させたが、短時間作用型Ca拮抗薬には悪化させる傾向が見られている169,222,223)
広範な心筋梗塞により左室収縮機能が低下している患者(駆出率40%以下)では、RA系抑制薬により左室リモデリング(心室拡張、心筋肥大、間質線維化)が抑制され、その後の心不全や突然死の発生率が減少することが明らかにされている224,225)。心室リモデリングは心筋障害の進展、心不全の発生・増悪に非常に重要な役割を果たすことが示唆されている。心筋梗塞により左室拡張や左室収縮機能不全がある患者では、RA系抑制薬がよい適応になる。また、心筋梗塞後の低心機能患者において、RA系抑制薬・β遮断薬・利尿薬に選択的アルドステロン拮抗薬を追加投与すると予後がさらに改善することが報告されている226)
 
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