(旧版)高血圧治療ガイドライン2004

 
第6章 臓器障害を合併する高血圧


1)脳血管障害

b 慢性期

脳卒中を既往に有する患者は、有さない者に比し、はるかに高率に脳卒中を発症することが知られており、脳卒中の最大の危険因子である高血圧をいかにコントロールするかは慢性期の脳卒中患者の治療上、極めて重要な問題である。本邦での後ろ向き研究の結果では脳卒中後の血圧と再発率との関係には、病型による違いが顕著であり、脳梗塞の再発と拡張期血圧の間には、脳出血例には見られないJ型カーブ現象が見られることが報告され注目されていた196)。しかしながら、脳卒中既往者の降圧治療の効果について、9件の臨床試験をまとめたINDANA(INdividual Data ANalysis of Antihypertensive intervention trials)Project Collaboratorsによる6,752例でのメタアナリシス197)により、降圧療法群では非降圧療法群に比し相対危険度28%の有意な低下が示されていた。その意味で、本邦の研究者も多数参加したPROGRESS106)の結果は極めて意義が大きい。
PROGRESSでは、一次評価項目である脳卒中の再発については、ペリンドプリル群(その過半数に利尿薬が投与された)で、プラセボ群に比し28%の有意な相対リスクの低減効果が示された。また、二次評価項目についても、26%の心血管系事故発症抑制効果が実証され、臨床病型別のオッズ比の検討では、脳出血が0.50、虚血性脳卒中が0.76と脳出血例での再発抑制効果がより強いものの、病型に関わらず抑制できることが示された。また、脳卒中再発例における痴呆・高度の認知機能障害198)、ADL障害や要介護状態の発現頻度も有意に抑えられることが示された199)。さらに、虚血性脳卒中の3つの臨床病型であるラクナ梗塞、心原性脳塞栓症、アテローム血栓性脳梗塞についても検討されており、どの臨床病型の脳梗塞例についてもそれぞれ23%、23%、39%の再発抑制傾向にあり、アテローム血栓性脳梗塞については推計学的にも有意な抑制が得られることが明らかとされている200)。一方、本邦で実施されたCTサブスタディでは無症候性脳梗塞や脳萎縮の発現には両群で有意な差がなく、その発現にはエントリー時の拡張期血圧が独立したリスクとなることが明らかとされた179)
以上の結果は、エントリー時の血圧値である147/86mmHgから従来の治療に加えてペリンドプリル(4mg/日)や利尿薬であるインダパミド(2mg/日)の追加投与により血圧を138/82mmHg程度に持続的に降下させることにより、平均年齢64歳の患者で4〜5年間で28%ものさらなる再発抑制効果が得られることを実証し、慢性期の脳卒中患者における降圧の重要性を示している。
降圧薬治療は、通常発症1カ月以降の慢性期から開始する。降圧目標は、年齢などを考慮しながら、治療開始2〜3カ月後の一次目標は血圧150/95mmHg未満とする。最終目標は、脳卒中の病型に関わらず、血圧140/90mmHg未満が妥当であろう。なお、脳出血やラクナ梗塞はやや低めにコントロールすることが望ましい201)
降圧薬治療は少なくとも2〜3カ月かけて、徐々に一次目標まで降圧する。治療中に、めまい、ふらつき、だるさ、頭重感、しびれ、脱力、気力低下、神経症候の増悪などを訴えた場合は、降圧による脳循環不全症状の可能性があり、降圧薬の減量や変更が必要である。一次目標を安全に達成できたら、さらなる降圧の可否を決め、必要に応じて数カ月かけて最終目標のレベルまで降圧する。
使用薬物は脳循環動態への影響を考慮して選択する。表6-1に各種降圧薬の脳血流ならびに脳代謝に及ぼす主な急性効果を示す。PROGRESSにより有用性が示されたACE阻害薬および少量の利尿薬に加え、脳卒中や痴呆症の発症予防において顕著な有効性が示唆されているARBや長時間作用型のCa拮抗薬が有用と思われる。


表6-1 各種降圧薬の脳循環代謝に及ぼす急性効果
降圧薬 脳血流量 脳血流自動
調節下限域
脳代謝
Ca拮抗薬
ACE阻害薬 →↑
α遮断薬 →↑  
β遮断薬 ↓(↑)* →↑(↓)*
利尿薬    
ARB →↑  
↑:増加、上昇 ↓:減少、下降 →:不変
*血管拡張型β遮断薬
 
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