(旧版)高血圧治療ガイドライン2004

 
第2章 血圧測定と臨床評価


1)血圧測定

c 24時間自由行動下血圧測定

カフ・オシロメトリック法による精度の優れた自動血圧計が開発され49,50,51)、自由行動下の血圧を非観血的に15〜30分間隔で24時間自由行動下血圧測定(Ambulatory Blood Pressure Monitoring:ABPM)することによって診察室以外の血圧情報が得られ、24時間にわたる血圧プロフィール、24時間、昼間、夜間、早朝などの限られた時間帯における血圧情報が得られるようになった。ABPMの普及に対し、本邦でも「24時間血圧計の使用(ABPM)基準に関するガイドライン」が刊行されている52)。通常、血圧は覚醒時に高値を示し、睡眠時に低値を示すことが明らかとなった。また、多数の測定値が得られることにより、自動血圧計で24時間連続測定した血圧値の平均値の方が外来血圧よりも高血圧性臓器障害の程度とより相関していること、および治療による臓器障害の抑制・改善とも密接に相関していることが示されている53,54)。また、一般集団、高齢者集団あるいは高血圧集団において、ABPMは、外来血圧以上に心血管病発症を予測できる55,56,57,58,59)
高血圧患者においても一般に夜間睡眠時には血圧が下降(dipper)するが、なかには夜間の血圧下降がみられない例(non-dipper)や夜間に昇圧する例(inverted-dipper)があり、non-dipperやinverted-dipperではdipper(昼間覚醒時血圧値の平均10%以上夜間に下降)に比較して、無症候性ラクナ梗塞、左室肥大、微量アルブミン尿などの高血圧性臓器障害を高率に認める60,61,62)。また、前向き研究においてnon-dipper群はdipper群に比較して心血管事故のリスクが高いことが示されている63)。しかしながら、本邦の高血圧患者600例以上を対象としたJ-MUBA(Japanese Multicenter Study on Barnidipine with ABPM)では、臓器障害のない例でもnon-dipperを示す例が数多くみられている64)。一方、大迫研究の成績によれば、正常血圧者においても、non-dipperの心血管事故のリスクは高い65)。このような観点から夜間血圧の臨床的意義が注目されている。昼間血圧レベルの20%以上夜間降圧を示すものをextreme dipper(夜間過降圧)と定義し、高齢者では無症候性脳梗塞が多いとする報告66)の反面、一般住民ではextreme dipperのリスクは正常パターン(dipper)と同程度であるとする報告もあり67)、extreme dipperの臨床的意義についてはさらに検討する必要がある。近年、朝の高血圧や、深夜低値の血圧から早朝覚醒後に急激に昇圧するモーニングサージ(morning surge)が、朝の時間帯における心血管事故との関係で注目されている68,69)
ABPMは白衣高血圧の診断に特に有用であり、白衣高血圧が疑われる例および治療抵抗性高血圧の診断に適応となる。ABPMによる正常血圧の定義はなされていないが、本邦の18歳から93歳までの正常血圧者634名においてABPMを測定した24時間平均値±標準偏差は、男性119±9/70±6mmHg、女性110±10/64±7mmHgであった70)。JNC VI、JNC7では日中の覚醒時血圧が135/85mmHg以上、睡眠時血圧が120/75mmHg以上を高血圧と提唱している29,42)。また、1999年WHO/ISHのガイドライン44)および2003 ESH-ESCガイドライン43)では24時間血圧125/80mmHgが外来血圧の140/90mmHgに相当するとしている。また、前述の大迫研究では24時間の平均値135/80mmHgが高血圧の基準値になるとされている71)。以上のような報告より、24時間ABPM平均値で135/80mmHg以上の場合には高血圧として対処すべきであろう。
近年ABPMの短期変動性の増大が心血管病の危険因子となることが明らかにされ,ABPMの新たな臨床的意義として注目されている72)
 
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