(旧版)高血圧治療ガイドライン2004

 
第2章 血圧測定と臨床評価


1)血圧測定

b 家庭血圧測定

家庭血圧の測定は、患者の治療継続率(コンプライアンス)を改善するとともに、降圧薬治療による過剰な降圧、あるいは不十分な降圧を評価するのに役立つ。ことに服薬前の測定は、薬効の持続時間の評価に有用である35)。また、白衣高血圧の診断に有用である。これと関連して、家庭血圧測定は朝の高血圧や逆白衣高血圧(仮面高血圧)の診断にも有用である。家庭血圧測定条件に関しては日本高血圧学会より指針が提示されている36)。家庭血圧測定には、ある個体で聴診法との較差が5mmHg以内であることが確認された上腕カフ・オシロメトリック装置を用いる。朝は起床後1時間以内、排尿後、座位1〜2分の安静後、降圧薬服用前、朝食前に、また晩は就床前、座位1〜2分の安静後に測定することが推奨されている。家庭血圧は朝晩1機会にそれぞれ1回の測定でも、長期間測定することで十分な臨床的価値が保たれるが、通常、患者は1機会に複数回測定することが多い。日常診療では1機会に複数回測定されたそれぞれの血圧値、平均値、変動性も適宜評価されねばならない。したがって、測定された値はすべて記載され報告されることが勧められている。家庭血圧の臨床評価に、測定された値のうちどの値を用いるかについての同意は得られていない。しかし後述する世界の高血圧診療ガイドラインにおいて、家庭血圧の基準値の根拠となった多くの疫学研究の成績は、1機会に1回の測定値の平均値から得られている。
したがって日本高血圧学会の指針においても、共通の臨床評価には「1機会の第1回目の測定値の朝晩それぞれ長期間の平均値を用いる」としているが36)、日常診療では臨床現場の実情に即した判断が求められる。家庭血圧は長期にわたる多数回の測定が可能であり、季節変動のような長期の血圧変動性の評価にも有用である37)。指用の血圧計は不正確である。手首血圧計は使用が容易であるが、水柱圧補正が困難であること、手首の解剖学的特性から動脈の圧迫が困難である場合があり不正確になることが多く38)、現状では家庭血圧測定には、上腕用を使用する39,40)。家庭血圧は外来血圧値よりも優れた生命予後の予知因子であると報告されており41)、家庭血圧値と心血管病発症および生命予後に関する臨床成績の集積を待って、今後さらなる臨床での応用が期待される。家庭血圧値は外来血圧値よりも一般に低値を示す傾向にある。近年家庭血圧値による血圧分類は一般化しつつある。JNCVI42)、JNC729)および2003ESH-ESCガイドライン43)では、欧米の断面的調査や本邦の大迫研究を根拠に135/85mmHgが高血圧の基準値であるとしている。一方1999年のWHO/ISH ガイドラインは125/80mmHgが診療所血圧140/90mmHgに相当するとしている44)。したがって、125/80mmHg未満は正常血圧と考えられる。家庭血圧を用いた世界で唯一の前向き観察研究である大迫研究において、総死亡の最も低い点から相対危険比が10%上昇する点を高血圧とすると、その値が137/84mmHgであることが示された45)。一方、心血管病死亡の相対危険比の最小となる家庭血圧値は120〜127/72〜76mmHgであり、138/83mmHg以上で相対危険比が有意に上昇することから46)、JSH2000ガイドラインは家庭血圧の高血圧を135/80mmHg以上とした47)。このように欧米と日本の家庭血圧基準値に差のあることから、日本高血圧学会は家庭血圧測定条件設定の指針の中で、「家庭血圧は135/80mmHg以上をもって高血圧と診断し、135/85mmHg以上ならば確実な高血圧として降圧治療の対象とする。一方、125/80mmHg未満を家庭血圧の正常とし、125/75mmHg未満を確実な正常血圧と判定する」としている36)。JSH2004ガイドラインにおいては世界との共通性を考慮し、前述の測定条件設定の指針を単純化し135/85mmHg以上を高血圧とし、125/80mmHg未満を正常血圧の基準として採用した。
なお、家庭血圧の正常基準は家庭血圧における降圧目標レベルとは異なる。後者を得るには、家庭血圧に基づく介入試験の成績を待たねばならない48)
 
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