(旧版)高血圧治療ガイドライン2004
第1章 高血圧の疫学 |
4)公衆衛生上の高血圧対策
NIPPON DATA 80では、脳卒中死亡者の半数以上が軽症高血圧以下(収縮期血圧160mmHg未満、拡張期血圧100mmHg未満)と分類される対象群で起こっている10)。したがって、特に血圧の高い患者のみならず国民の血圧水準を低下させる環境整備が重要といえる。
国民の血圧水準に影響を与える要因は、食塩、カリウム、カルシウム、マグネシウム摂取量、肥満度、アルコール摂取量、身体活動量などである。特に本邦では、食塩摂取量が依然として多い。1日あたり食塩3gの低下で、収縮期血圧1〜4mmHgの低下が期待できる12,29)。
国民の血圧水準がわずか1〜2mmHg低下しても、脳卒中や心筋梗塞などの発症・死亡率に大きな影響があることが知られている12,30)。「健康日本21」では、本邦の疫学調査研究をまとめ、国民の血圧低下による脳卒中、心筋梗塞死亡率の低下の期待値を算出した。それによれば、国民の収縮期血圧水準2mmHgの低下で、脳卒中死亡率は6.4%の低下が期待できる。また、脳卒中死亡者数は9,000人程度減少し、ADL低下者は3,500人程度減少する(表1-3)12)。
国民の食塩摂取量の低下を図るには、第一に高血圧患者に対する減塩指導の徹底が必要である。しかし、実際に減塩していると回答した人の減塩の程度は、1日あたり1〜2g程度であることがINTERMAP研究で観察されている31)。したがって、高血圧患者や減塩を必要とする人に対して、より減塩を実行しやすい環境を整える必要がある。また、国民の多くが自然に減塩できる環境を整備してゆくことが、国民全体の血圧水準を下げる上で必要である。
本邦では、食品の栄養表示は一部の栄養素や添加物に限定されており、食塩量その他の必要な栄養素含有量の表示も義務ではない。加えて、Na量が表示されていても、食塩換算量の表示はなく、また、米国のようにその食品からの食塩摂取量が1日許容量あたりの何%に相当するかという、国民にわかりやすい表示もない。これらのことは、高血圧対策上、極めて重要なことであり、今後の課題といえる。
表1-3 収縮期血圧低下に伴う脳卒中死亡・羅患および日常生活動作(ADL)低下者の減少(推測値) | ||||||||||||||||||||||||||||||
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文献12より一部変更して作表 |