(旧版)高血圧治療ガイドライン2004
第1章 高血圧の疫学 |
2)高血圧と心血管病の発症および予後
a 高血圧による脳卒中の多発
血圧水準が高いと脳卒中罹患率、死亡率が高くなる。高血圧は脳卒中と特異的な関連が強く、本邦では、依然として脳卒中罹患率・死亡率が虚血性心疾患あるいは心筋梗塞罹患率・死亡率より高い5,6,7)。表1-1は、年齢別にみた本邦の人口動態統計による脳卒中、冠動脈疾患・急性心筋梗塞死亡率であるが、脳血管疾患による死亡率が冠動脈疾患(虚血性心疾患)死亡率より全人口でみると1.8倍高い5)。罹患率を調査した沖縄県における全県登録の成績でも、心筋梗塞罹患率は脳卒中の4分の1である7)。高血圧と脳卒中罹患率・死亡率の関係は段階的な正の関係がある8,9,10,11)。脳卒中の病型別では、脳出血が脳梗塞よりも血圧との関連が強いが、段階的な正の関連は同じである。久山町研究の追跡調査では、血圧と脳梗塞の関連は、図1-2に示したように、段階的な強い正の関連が見られる9)。また、久山町研究では、ラクナ梗塞においても、米国高血圧合同委員会第Ⅵ次報告(JNCVI)による血圧区分とよく相関した11)。JNCVIによる血圧区分と脳卒中死亡の強い関連性は、国民の代表集団約1万人を14年間追跡したNIPPON DATA 80においても明瞭に示されている10)。
本邦内外の疫学追跡調査結果をまとめて示した血圧と脳卒中罹患・死亡率の相対危険度が、「健康日本21」の資料にも示されている12)。それによれば、収縮期血圧10mmHgの上昇は、男性では約20%、女性では約15%の脳卒中罹患・死亡の危険度を増す強さがある(表1-2)。
高齢者においても、血圧と脳卒中の関連は青壮年者における関連よりも弱くなるが認められる。久山町研究では、80歳以上は60~79歳と比較して、JNCVIによる血圧分類との関連は弱くなるが13)、欧米および日本の多くのコホートを統合したメタアナリシス研究では、弱くなっても明瞭に示されている14)。また、アジア・オセアニア地区のコホート研究を統合した研究においても、同様の成績が得られている8)。
表1-1 脳血管障害および冠動脈疾患死亡率の年齢層別比較(2002年、人口10万対)(文献5より) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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表1-2 国内外における収縮期血圧10mmHgの上昇と脳卒中相対危険度の疫学成績 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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重回帰分析(他の危険因子考慮済み)、*久山町の相対危険度は高血圧の有無に対するもの 文献12より改変して作成 |
図1-2 血圧分類別にみた脳梗塞発症率 |
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久山町住民降圧薬非服用者、年齢調整1961~1993(文献9より引用) |