(旧版)腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン (改訂第2版)
第5章 予後
■ Clinical Question 4
手術後の後療法の内容により予後が変わるか
要約
【Grade A】
腰椎椎間板ヘルニアの初回手術後に活動を低下させる必要はないものの,手術直後から積極的なリハビリテーションプログラムを行う必要性も認められない.
【Grade B】
術後1ヵ月経過した頃から開始されるリハビリテーションプログラムは,数ヵ月間は機能状態を改善させ,再就労を早くするという強い証拠があるが,1年経過時においては全般改善度において軽い運動と比較し差は認められない.
【Grade B】
積極的な復職指導は就職率の向上に有効である.
背景・目的
臨床症状の改善においては保存的治療よりも手術的治療のほうが長期的にも良好な成績を示すものの,復職という観点では保存的治療と手術的治療で有意の差が認められないとの報告が多い.臨床成績が良好にもかかわらず復職率が低い原因としては心理的要因の関与を指摘する報告もあるが,手術後の後療法が関係している可能性も考えられ,この点を明確にしておく必要がある.
しかし本項は社会背景や医療システムが大きく関与している事項であるため,多くの報告はわが国にそのまま適用することはできない.
しかし本項は社会背景や医療システムが大きく関与している事項であるため,多くの報告はわが国にそのまま適用することはできない.
解説
腰椎椎間板ヘルニア初回手術後のリハビリテーションプログラムに関して2000年までに発刊された論文のsystematic review(D2F02293,EV level 1)とその後のRCTから,以下のような結論が得られたと報告されている.
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早期リハビリテーションプログラム |
早期リハビリテーションプログラムの有無を比較した報告はない.プログラム内容を精力的と非精力的とで比較したRCT[(DF10009,EV level 5),(DF00912,EV level 4),(D2F01228,EV level 3)]では集中的訓練と軽い訓練に差はないと結論している.術後2週からの早期リハビリ開始と術後6週からリハビリ開始を比較した報告ではRoland-Morris スコアやDRI(disability rating index)の改善率は早期リハビリ患者対象群のほうが良好であったが就労状況では差がなかった(D2F00635,EV level 5).これらのすべての報告で早期リハビリは再手術のリスクファクターにはなっておらず,術直後から活動を低下させる必要はないと考えられる. | |
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術後1ヵ月以降に開始されるリハビリテーションプログラム |
術後4〜6週間に開始されるリハビリと無治療群を比較したRCT[(DF00497,EV level 4),(D2F01221,EV level 4),(D2F00435,EV level 4)]では,運動療法は早期の疼痛と機能の改善に有効であった.理学療法士や臨床心理士,職業訓練士,ソーシャルワーカー,集中腰痛学級などによる複合リハビリテーション・集中訓練プログラムと家庭での軽いプログラムを比較したRCTが複数認められる[(DF03514,EV level 2),(DF00507,EV level 4),(DF10008,EV level 4),(D2F01221,EV level 4),(D2F00435,EV level 4)].これらの論文では集中訓練のほうが短期間での疼痛や機能状態はよいとしているものの,長期的な疼痛や機能の改善や早期復職に関する有効性を指摘したものはない.心理学のオペラント療法であるbehavioral graded activityに基づくプログラムと通常のプログラムを比較した報告(D2F02294,EV level 1)でも,全般的改善度,休業率で差がなかったと報告されている. | |
1年間のリハビリ内容のうち筋力強化の有無により2群に割り付けたRCT(D2F02217,EV level 1)では,筋力強化の効果は認められなかったとしている.術後1年以降の背筋力強化内容のうち腰椎過伸展の有無により2群に割り付けたRCT(D2F02291,EV level 3)でも,短期的な効果しか認められなかったとしている. | |
したがって,術後1ヵ月経過した頃から開始されるリハビリテーションプログラムは,短期的には集中訓練群での改善がよいと考えられるが,長期に及ぶ効果は認めがたいと考えられる.いずれの報告もリハビリがヘルニアの再発率を増加させることはなかったと報告している. | |
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復職指導 |
医療アドバイザーが個々の患者の愁訴に応じて復職を検討する消極的な復職指導と,患者と医療サイドへの積極的復職指導を働きかける方針との2群に分けて比較した質の高いRCT(DF00674,EV level 2)がある.重量物の挙上や腰椎の捻りの繰り返しなどの重労働でなければ,積極的復職指導のほうが1年後までの再就職率が高いことが示されている.エビデンスの低い報告ではあるが術後の活動性をまったく制限せずに,可及的早期の復職を促しても合併症は増加せず,休職期間の短縮が可能であったとする報告(D2F02305,EV level 7)もある. |
文献