(旧版)腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン (改訂第2版)
第5章 予後
■ Clinical Question 1
腰椎椎間板ヘルニア患者のなかでどの程度の患者が手術にいたるか
要約
【Grade B】
一定期間以上の保存的治療無効例のうち手術にいたる頻度は,重症度により異なり約2割から5割と幅がある.
背景・目的
ヘルニア患者のなかでどの程度の割合の患者が手術にいたる可能性があるかを知ることは,発症直後の患者に対して病状を説明する際に有益である.
解説
腰椎椎間板ヘルニアでは多くの症例が自然経過ないしは保存的治療だけで改善を示すが,手術にいたる症例も認められる.腰椎椎間板ヘルニアに対して手術を受けた患者に関する各国の統計をみると,米国では10万人中50〜70人,フィンランドでは40人,英国では10人と報告されている.スウェーデンでは1987〜1996年には10万人中24人であり,1993年は32人であったが,1999年では20人と減少している(D2F00822,EV level 5).地域差や年代による変動は,人口構成や休業補償制度などの社会環境と,医師数やMRIの普及度などの医療情勢とを反映したものと考えられる.これらの報告は入院患者のデータ解析であり近年普及しつつある日帰り手術件数は含まれていない.一方で,手術を受けることなく治療されたヘルニア患者を含めたヘルニア患者の総数の統計はどの国にも存在しないので,ヘルニア患者のなかでどの程度の患者が手術にいたるのかが正確にはわからないことになる.
腰椎椎間板ヘルニア患者のなかでどの程度の割合で手術が選択されることになるかを知るためには,徹底的に保存的治療を行ったシリーズで手術にいたった患者の割合や,RCTで保存的治療に割り当てられた患者のなかで手術にいたった患者の割合が参考になる.
1985年に施行されたエビデンスの低い研究ではあるが,徹底的に保存的治療を施行した58例中6例(10%)は耐えがたい疼痛の持続により手術を選択せざるを得なかったとしており,この数字が手術を検討する程度の重症例における手術を選択せざるを得ない割合の最低値と考えられる(DF02978,EV level 7).6週間の保存的治療が奏効しなかった例を早期手術と保存的治療継続とに割り付けたRCTでは,保存的治療継続群の54%が13ヵ月以内に手術を受けていた(D2F00806,EV level 2).他の同様のRCTでは,保存的治療継続群の39%が耐えがたい疼痛のため1年以内に手術を受けていた(D2F02248,EV level 2).
最近の多施設研究にThe Spine Patients Outocomes Research Trial(SPORT)がある[(D2F01308,EV level 1),(D2F01309,EV level 5)].この研究では,腰椎椎間板ヘルニアで6週以上の保存的治療を施行しても下肢痛が持続している1,244例をRCTに参加した501例とRCTを拒否しコホート研究に参加した743例とに分けて検討している.RCT参加者はODIの平均が46.9と中等度以上の症状を示しているが,RCT参加者で保存的治療に割り振られた患者の30%が3ヵ月以内に,45%が2年以内に手術を受けていた.RCTを拒否し保存的治療を希望した患者はODIの平均が35.9と低く軽症例が多かったが,9%が3ヵ月以内に,22%が2年以内に手術を受けていた.すなわち,手術にいたる割合は患者背景によってかなり異なり幅が大きいが,症状の強さにある程度関係していると考えられる.さらに,報告されているのはプライマリケア医から紹介された患者に限ったデータであり,より軽症でMRI検査や専門病院への紹介を要さないと判断された症例を含めれば,ヘルニア患者全体のなかで手術にいたる割合はこれらの数字よりもかなり低いと思われる.
1991〜1996年は早期の手術を促し,1997年以降は2〜3週間の保存的治療を延長するように治療方針を変更した2群を比較した報告では,手術にいたった比率は早期手術方針の時期では69.8%であったのに対し保存的治療延長方針の時期では46.4%に減少し,保存的治療の継続により手術施行率が減少したのはnon-contained typeであり,contained typeでは変化はなかったとしており,手術にいたる頻度が脱出形態と関連することが示されている(D2F00864,EV level 6).
腰椎椎間板ヘルニア患者のなかでどの程度の割合で手術が選択されることになるかを知るためには,徹底的に保存的治療を行ったシリーズで手術にいたった患者の割合や,RCTで保存的治療に割り当てられた患者のなかで手術にいたった患者の割合が参考になる.
1985年に施行されたエビデンスの低い研究ではあるが,徹底的に保存的治療を施行した58例中6例(10%)は耐えがたい疼痛の持続により手術を選択せざるを得なかったとしており,この数字が手術を検討する程度の重症例における手術を選択せざるを得ない割合の最低値と考えられる(DF02978,EV level 7).6週間の保存的治療が奏効しなかった例を早期手術と保存的治療継続とに割り付けたRCTでは,保存的治療継続群の54%が13ヵ月以内に手術を受けていた(D2F00806,EV level 2).他の同様のRCTでは,保存的治療継続群の39%が耐えがたい疼痛のため1年以内に手術を受けていた(D2F02248,EV level 2).
最近の多施設研究にThe Spine Patients Outocomes Research Trial(SPORT)がある[(D2F01308,EV level 1),(D2F01309,EV level 5)].この研究では,腰椎椎間板ヘルニアで6週以上の保存的治療を施行しても下肢痛が持続している1,244例をRCTに参加した501例とRCTを拒否しコホート研究に参加した743例とに分けて検討している.RCT参加者はODIの平均が46.9と中等度以上の症状を示しているが,RCT参加者で保存的治療に割り振られた患者の30%が3ヵ月以内に,45%が2年以内に手術を受けていた.RCTを拒否し保存的治療を希望した患者はODIの平均が35.9と低く軽症例が多かったが,9%が3ヵ月以内に,22%が2年以内に手術を受けていた.すなわち,手術にいたる割合は患者背景によってかなり異なり幅が大きいが,症状の強さにある程度関係していると考えられる.さらに,報告されているのはプライマリケア医から紹介された患者に限ったデータであり,より軽症でMRI検査や専門病院への紹介を要さないと判断された症例を含めれば,ヘルニア患者全体のなかで手術にいたる割合はこれらの数字よりもかなり低いと思われる.
1991〜1996年は早期の手術を促し,1997年以降は2〜3週間の保存的治療を延長するように治療方針を変更した2群を比較した報告では,手術にいたった比率は早期手術方針の時期では69.8%であったのに対し保存的治療延長方針の時期では46.4%に減少し,保存的治療の継続により手術施行率が減少したのはnon-contained typeであり,contained typeでは変化はなかったとしており,手術にいたる頻度が脱出形態と関連することが示されている(D2F00864,EV level 6).
文献