(旧版)腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン (改訂第2版)
第4章 治療
■ Clinical Question 2
腰椎椎間板ヘルニアの治療にspinal manipulationは有効か
推奨
【Grade I】
Spinal manipulationが有効か否かを判定するための腰椎椎間板ヘルニアに焦点をあてた十分な科学的根拠を示した研究はない.
背景・目的
腰椎椎間板ヘルニアに対するspinal manipulationの歴史は長いが,その適応,施行後の結果は多様である.わが国においては整形外科的基盤,東洋医学的基盤,民間治療的基盤に立った,あるいは米国におけるカイロプラクティックを真似たspinal manipulationが行われており,それぞれが独自の理論と結果を報告している.坐骨神経痛に対する効果のエビデンスが報告されているが,腰椎椎間板ヘルニアに対する保存的治療の1つとして認知し治療体系に組み込むべきか否かについての議論はいまだ十分に行われていない.
解説
Protrusion型の腰椎椎間板ヘルニアに対してpulling法とturning manipulation法を行った112例を非施行の50例と比較した報告では,spinal manipulationの有効率は87%で対照群の68%に比べ有意差があると述べている.この研究はspinal manipulationに関してRCTでデザインされたごく少数の1研究であるが,独自の3段階の評価法が不十分であり,結果の信頼性に問題がある(DF00414,EV level 4).一方,MRIを用いた別の研究では,MRI上のヘルニア縮小と臨床所見が相関し,カイロプラクティックが安全でかつ有効な方法であると結論している.しかし,治療前のヘルニアの詳細がまったく不明であり,またMRIの評価が施術後1年時であり,どこまでがカイロプラクティックによる影響かを判断できない(DF01251,EV level 5).腰痛と下肢痛のある患者59例にmanipulationを含む保存的治療を行った研究では,その90%で腰痛,あるいは下肢痛が改善し,75%でSLRテスト,腰部のROMの改善が示されている.しかし,対照群の病態が明らかでなく,腰椎椎間板ヘルニアに対するmanipulationの評価と言い切れない(DF01492,EV level 5).一方,L5/S1の椎間板ヘルニアに対するH-reflexの検討では,24例中13例にmanipulation前にH-reflexのparametersの異常が示された.manipulation前後でヘルニア側で低下していたamplitude の有意な増大がみられた.一方,latencyに関しても短縮する傾向がみられたが,統計学的有意差は示されなかった.24例中3例がmanipulationの手技不良やH-reflex測定手技不良のために検討群から除外され,また8例ではmanipulation前からH-reflex の異常がみられなかった.著者らはこのデータからmanipulationの有効性を主張しているが,8例のnegative H-reflex例の検討も実施しておらず,H-reflexからみたmanipulationの効果を論じることは危険である(DF00991,EV level 5).
文献