(旧版)腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン (改訂第2版)
第2章 病態
■ Clinical Question 5
腰椎椎間板ヘルニアの発症に遺伝的背景はあるか
要約
【Grade C】
腰椎椎間板ヘルニアや椎間板症の発症にはさまざまな背景が寄与しており,遺伝的背景もその1つにあげられる.タイプIX,XIコラーゲンやCILP,ビタミンD受容体の遺伝子多型性の関与が報告されているが,民族間での差異や発症頻度に差があり,今後詳細な検討が望まれる.
背景・目的
腰椎椎間板ヘルニアは特に若年性で家族集積性が高いことが知られている.ここでは,腰椎椎間板ヘルニアの遺伝的背景についてゲノムの多型を調べて多因子疾患の発症に関連する遺伝子を解析した,分子生物学的特徴について検討する.
解説
腰椎椎間板ヘルニアで手術を行った38例の一親等以内の親族(椎間板群)と,上肢疾患と診断され腰椎椎間板性疼痛の既往のない50例の一親等以内の親族(上肢群)にアンケート調査を行った報告がある.これによると,椎間板群の28%,上肢群の2%が腰椎椎間板性疼痛の定義にあてはまっていた.また椎間板群の7例が腰椎椎間板性疼痛のために手術を受けていたが,上肢群に手術を受けた例はなかった.以上より,腰椎椎間板性の疼痛や損傷は家族性に起こりやすいと結論した(DF01121, EV level 6).
21歳以下の腰椎椎間板ヘルニア手術群63例と対照群を比較した報告では,手術群では32%に家族歴があったが対照群では7%であり,約5倍の頻度で若年者の腰椎椎間板ヘルニアにおいては家族性の素因を有していた(DF02430, EV level 5).
18歳以下で手術を行った腰椎椎間板ヘルニア40例と,年齢・性別をマッチングした対照群120例を調査した報告でも,対照群と比べて家族性素因が認められた(odds ratio 5.61)(DF02343, EV level 6).
以上の報告から,腰椎椎間板ヘルニアの発生にはある程度は遺伝的背景が関与すると考えられ,特に若年性腰椎椎間板ヘルニアでは明らかに家族集積性があるといえる.
また,変性のない椎間板からヘルニアが発生することはないので,椎間板変性はヘルニアの発生に直接的には関連しないもののある程度は関与しているといえる.椎間板変性と遺伝的背景との関連にはいくつかの報告がある.
20組40例の男性の双子を対象にした調査では,MRI上椎間板の輝度や椎間高に対する影響は,双子であることが喫煙や年齢の10倍影響を与えると報告されている(DF01473, EV level 9).
腰椎変性疾患で手術を行った65例と,年齢・性別でマッチングした脊椎以外の疾患で手術を行った67例を対象にした報告では,腰椎変性疾患で手術を行った群では44.6%に腰椎変性疾患の家族歴があった.一方,脊椎以外の疾患で手術を行った群では25.4%に腰椎変性疾患の家族歴があり,両群間に有意差を認めた.odds ratio analysisでは2.37倍で,腰椎変性疾患で手術を行った群のほうが腰椎変性疾患の家族歴があったと報告されている(DF01379, EV level 6).
また,最近腰椎椎間板ヘルニア発症の疾患遺伝子としていくつかの候補遺伝子が報告されている.フィンランドからタイプIXコラーゲンのα2鎖のトリプトファン多型は椎間板症に寄与しているが(D2F02307, EV level 9),タイプIX コラーゲンのα3鎖のトリプトファン多型変異は,椎間板症の患者群においてコントロール群と比較し3倍多いと報告された(D2F02308, EV level 9).日本人およびギリシャ人を対象にした腰椎椎間板ヘルニア患者では,タイプIX コラーゲンα2鎖におけるトリプトファン多型は存在しなかったことから[(D2F02289, EV level 9),(D2F01902, EV level 9)],同じ疾患遺伝子でも人種間で腰椎椎間板ヘルニア発症に差があることが示されている.
タイプXI コラーゲンは軟骨特異的な細胞外マトリックスを構成するタンパクで,椎間板内の髄核および線維輪の双方に発現し,軟骨コラーゲン線維の直径を制御している.タイプXI コラーゲンのα1鎖の制御遺伝子であるCOL11A1は椎間板変性の進行に逆比例して発現が減少し,その遺伝子多型は腰椎椎間板ヘルニア患者群と関連していた(D2F00094, EV level 6).
ほかに,CILPは軟骨内に介在するタンパクであるが,TGF-βと結合することで軟骨基質の産生を抑制するが,その遺伝子多型は腰椎椎間板ヘルニア患者群と関連がみられたとの報告(D2F02284, EV level 9)や,ビタミンD受容体の遺伝子多型が椎間板変性および腰椎椎間板ヘルニアの発症に関連がみられたとの報告もある(D2F00803, EV level 9).
21歳以下の腰椎椎間板ヘルニア手術群63例と対照群を比較した報告では,手術群では32%に家族歴があったが対照群では7%であり,約5倍の頻度で若年者の腰椎椎間板ヘルニアにおいては家族性の素因を有していた(DF02430, EV level 5).
18歳以下で手術を行った腰椎椎間板ヘルニア40例と,年齢・性別をマッチングした対照群120例を調査した報告でも,対照群と比べて家族性素因が認められた(odds ratio 5.61)(DF02343, EV level 6).
以上の報告から,腰椎椎間板ヘルニアの発生にはある程度は遺伝的背景が関与すると考えられ,特に若年性腰椎椎間板ヘルニアでは明らかに家族集積性があるといえる.
また,変性のない椎間板からヘルニアが発生することはないので,椎間板変性はヘルニアの発生に直接的には関連しないもののある程度は関与しているといえる.椎間板変性と遺伝的背景との関連にはいくつかの報告がある.
20組40例の男性の双子を対象にした調査では,MRI上椎間板の輝度や椎間高に対する影響は,双子であることが喫煙や年齢の10倍影響を与えると報告されている(DF01473, EV level 9).
腰椎変性疾患で手術を行った65例と,年齢・性別でマッチングした脊椎以外の疾患で手術を行った67例を対象にした報告では,腰椎変性疾患で手術を行った群では44.6%に腰椎変性疾患の家族歴があった.一方,脊椎以外の疾患で手術を行った群では25.4%に腰椎変性疾患の家族歴があり,両群間に有意差を認めた.odds ratio analysisでは2.37倍で,腰椎変性疾患で手術を行った群のほうが腰椎変性疾患の家族歴があったと報告されている(DF01379, EV level 6).
また,最近腰椎椎間板ヘルニア発症の疾患遺伝子としていくつかの候補遺伝子が報告されている.フィンランドからタイプIXコラーゲンのα2鎖のトリプトファン多型は椎間板症に寄与しているが(D2F02307, EV level 9),タイプIX コラーゲンのα3鎖のトリプトファン多型変異は,椎間板症の患者群においてコントロール群と比較し3倍多いと報告された(D2F02308, EV level 9).日本人およびギリシャ人を対象にした腰椎椎間板ヘルニア患者では,タイプIX コラーゲンα2鎖におけるトリプトファン多型は存在しなかったことから[(D2F02289, EV level 9),(D2F01902, EV level 9)],同じ疾患遺伝子でも人種間で腰椎椎間板ヘルニア発症に差があることが示されている.
タイプXI コラーゲンは軟骨特異的な細胞外マトリックスを構成するタンパクで,椎間板内の髄核および線維輪の双方に発現し,軟骨コラーゲン線維の直径を制御している.タイプXI コラーゲンのα1鎖の制御遺伝子であるCOL11A1は椎間板変性の進行に逆比例して発現が減少し,その遺伝子多型は腰椎椎間板ヘルニア患者群と関連していた(D2F00094, EV level 6).
ほかに,CILPは軟骨内に介在するタンパクであるが,TGF-βと結合することで軟骨基質の産生を抑制するが,その遺伝子多型は腰椎椎間板ヘルニア患者群と関連がみられたとの報告(D2F02284, EV level 9)や,ビタミンD受容体の遺伝子多型が椎間板変性および腰椎椎間板ヘルニアの発症に関連がみられたとの報告もある(D2F00803, EV level 9).
文献