(旧版)腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン

 
第5章 予 後

 


5 手術後の後療法の内容により予後が変わるか

要 約
【Grade A】
腰椎椎間板ヘルニアの初回手術後に活動性を低下させる必要性はないものの、手術直後からの積極的なリハビリテーションプログラムの必要性も認められない。
【Grade A】
術後1ヵ月経過した頃から開始されるリハビリテーションプログラムは、数ヵ月間は機能状態を改善させ、再就労を早くするという強い証拠があるが、1年経過時においては全般改善度において軽い運動と比較し差は認められない。
【Grade B】
職場での医療アドバイザーによる介入は就職率の向上に有効である。

背景・目的
臨床症状の改善においては保存療法よりも手術療法のほうが長期的にも良好な成績を示すものの、復職という観点では保存療法と手術療法で有意の差が認められないとの報告が多い。臨床成績が良好にもかかわらず復職率が低い原因としては心理的要因の関与を指摘する報告もあるが、手術後の後療法が関係している可能性も考えられ、この点を明確にしておく必要がある。

解 説
腰椎椎間板ヘルニア初回手術後のリハビリテーションプログラムに関して、2000年4月までに発刊されたRCT論文13編のmeta-analysisを行った結果、以下のような結論が得られたと報告している(DF00014, EV level 1)。

■ 1 ■術直後のリハビリテーションプログラム
術当日から7日間にわたる、1日に8回2時間おきの自動介助SLR訓練と1日に1回の訓練を比較したところ、1週と6週後で、痛みと障害度(Oswetry)、再手術率に差がなかったので、精力的なSLR訓練がより有効とはいえないと報告されている(DF10009, EV level 5)。日常生活動作の増大、ホームトレーニング(モビリゼーション、体幹強化)、のちの筋力強化訓練や心肺強化などからなる集中的な訓練を行う群と、日常生活動作を増加させない1日1回の訓練と心肺強化訓練を奨励しない対照群を比較した報告によれば(DF00912, EV level 4)、1年後の痛みと就労状態およびSLRに差がなかったので、集中的訓練と軽い訓練に差はないと結論しており、手術後直後から活動性を低下させる必要性はないものの、手術直後からの積極的なリハビリテーションプログラムの必要性も認められないと考えられる。

■ 2 ■術後4〜6週間に開始されるリハビリテーションプログラム
21人の患者を、1回1時間、週2回、4週間の体幹筋強化と可動域訓練群と無治療群に分け、痛みと腰椎運動域、背筋の耐疲労性、機能状態などについて比較した報告(DF00497, EV level 4)によれば、手術により6週時で両群において改善がみられたが、訓練群ではさらに1年間の間有意に改善が維持されていた。
しかし、集中訓練プログラムと軽いプログラムを比較して、共に12ヵ月後の全般改善度に差はないとしている質の高いRCTが複数認められる(DF00507, EV level 4)。これらの論文では共に集中訓練のほうが短期間での機能状態はよいとしているものの、長期経過時においては全般改善度において差がなく、再就労や痛みなどの項目に関しても一定の見解は得られない。他にも、PTや臨床心理士、職業訓練士、ソーシャルワーカー、集中腰痛学級などによる多因子リハビリテーションと通常リハビリテーションを比較した報告(DF03514, EV level 2)も、1年後の全般改善度、休業率、再発率には差がなかったとしており、指導された訓練プログラムと家庭リハビリテーションを比較した報告(DF10008, EV level 4)でも、全般的改善度、障害程度、痛み、動きの点で両者には差がなかったと報告されている。したがって、以上のような結果から考えると、術後1ヵ月経過した頃から開始されるリハビリテーションプログラムは、短期間に関しては集中訓練群での改善がよいという強い証拠があるが、長期に及ぶ効果は認められないと結論できる。

■ 3 ■職場でのリハビリテーションプログラム
保険医療における60人の医療アドバイザーにより710人の術後患者に対して、多項目リハビリテーション指向のアプローチと通常のケアどちらかの指導を行うかの2群に分けて比較し、1年後の経過において前者で再就職率が高いということを示した質の高いRCT(DF00674, EV level 5)があり、職場での医療アドバイザーによる介入の有効性は認められることになる。
本項は社会背景や医療システムが大きく関与している事項であるため、わが国にてそのまま適用することは適当ではなく、参考程度に留める事項であると考えられる。

文 献
1) DF00014 Ostelo RW, de Vet HC, Waddell G et al:Rehabilitation after lumbar disc surgery. Cochrane Database Syst Rev 2:2002, CD003007
2) DF10009 Kitteringham C:The effect of straight leg raise exercises after lumbar decompression surgery:A pilot study. Physiotherapy 82:115-123, 1996
3) DF00912 Kjellby-Wendt G, Styf J:Early active training after lumbar discectomy. A prospective, randomized, and controlled study. Spine 23:2345-2351, 1998
4) DF00497 Dolan P, Greenfield K, Nelson RJ et al:Can exercise therapy improve the outcome of microdiscectomy? Spine 25:1523-1532, 2000
5) DF00507 Danielsen JM, Johnsen R, Kibsgaard SK et al:Early aggressive exercise for postoperative rehabilitation after discectomy. Spine 25:1015-1020, 2000
6) DF03514 Alaranta H, Hurme M, Einola S et al:Rehabilitation after surgery for lumbar disc herniation:Results of a randomized clinical trial. Int J Rehabil Res 9:247-257, 1986
7) DF10008 Johannsen F, Remvig L, Kryger P et al:Supervised endurance exercise training compared to home training after first lumbar diskectomy:A clinical trial. Clin Exp Rheumatol 12:609-614, 1994
8) DF00674 Donceel P, Du Bois M, Lahaye D:Return to work after surgery for lumbar disc herniation. A rehabilitation-oriented approach in insurance medicine. Spine 24:872-876, 1999

 

 
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