(旧版)腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン

 
第5章 予 後

 


2 保存療法と手術療法による予後の差はあるか

要 約
【Grade B】
保存療法と手術療法を比較すると、臨床症状に関しては手術療法のほうが長期的にも良好な成績を示す。
【Grade B】
復職率に関しては保存療法と手術療法間には差が認められない。

背景・目的
腰椎椎間板ヘルニア患者で手術に至る大多数は、急性馬尾麻痺を呈した場合のような絶対的な適応ではなく、腰痛や下肢痛が遷延し治療期間が長期にわたった場合などの相対的な手術適応の場合である。 したがって、保存療法と手術療法を選択した場合の長期成績の差を明確にしておく必要がある。

解 説
保存療法と手術療法の成績比較についてのRCT(randomized controlled trial)の報告(DF04151, EV level 2)をみると、手術療法は術後1年で65%、4年で66%、10年で58%が良好な成績であったと報告している。 一方、保存療法は36%、51%、56%であり、4年以降は手術療法との間に優位差がなかったと報告している。 また、下肢痛の遺残頻度は手術例が4年21%、10年2%、保存療法例が32%、2%、腰痛の遺残は手術療法例が4年37%、10年16%、保存療法例が42%、21%であり、長期的には手術療法と保存療法に差がなかったとしている。
しかし、この結果はRCTの対象となった126人の患者以外に手術の適応があるとされた67人と手術が不要と判断された87人の患者が同じ時期に存在しているため、どちらを選択してもよい患者だけの結果であると考えるべきである。 さらに、RCTで保存療法を選択した患者のなかで1年以内に手術に至った症例が17例あり、保存療法群から除外して検討しているが、これらの症例を保存療法としては成績不良として計算すると保存療法群のなかで良好な成績を示したのは1年で24%、4年で38%、10年で41%となり、経年的に成績は向上するものの手術療法のほうが長期的にも成績がよいことになる。
エビデンスレベルは低いものの入院治療が必要となるような強い下肢痛を訴えた患者で手術適応があるとして手術療法を行った患者と保存療法を継続した患者を13年間観察した報告(DF01460, EV level 5)では、手術療法が1年で91%、5年で84%、13年で81%の患者で良好な成績を示したのに対し、保存療法では59%、56%、59%であったと報告している。 医師と患者とで相談したうえで治療法を決定し群わけした後、5年間の成績を前向きに調査した報告(DF00294, EV level 5)によれば、手術療法群のほうが当初の症状が重く機能的にも低いにもかかわらず、良以上の改善を示した症例は手術療法70.4%、保存療法56.1%で、下肢痛遺残例は28.6%、40.6%、腰痛遺残例は30.2%、45.2%で、手術療法のほうが良好であったとしている。 また、経年的な傾向としては、手術療法群と保存療法群の差は当初の2年間は縮まっていったものの、3年以後はその傾向は認められなかったとしている。 したがって、臨床症状をアウトカムとした場合には、長期的にみても手術療法のほうが良好な成績を示すと考えられる。
しかし、復職率をアウトカムとして評価すると、手術療法例が1年で93%、5年で79%、13年で79.5%、保存療法例では86%、74%、79.5%との報告(DF01460, EV level 5)や、手術療法91.1%、保存療法84.6%との報告(DF00294 , EV level 5)があり、復職率でみると長期的にも手術療法と保存療法との間に差は認められないことになる。

文 献
1) DF04151 Weber H:Lumbar disc herniation. A controlled, prospective study with ten years of observation. Spine 8:131-140, 1983
2) DF01460 Nykvist F, Hurme M, Alaranta H et al:Severe sciatica:A 13-year follow-up of 342 patients. Eur Spine J 4:335-338, 1995
3) DF00294 Atlas SJ, Keller RB, Chang Y et al:Surgical and nonsurgical management of sciatica secondary to a lumbar disc herniation:Five-year outcomes from the Maine Lumbar Spine Study. Spine 26:1179-1187, 2001

 

 
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