(旧版)腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン

 
第4章 治 療

 


3 腰椎椎間板ヘルニアの治療において非副腎皮質ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は有効か

要 約
【Grade I】
腰痛に対する非副腎皮質ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の有効性は報告されている。また、腰椎椎間板ヘルニア症例を含む腰痛症例に対するNSAIDsと筋緊張弛緩薬の併用による有効性は示されているが、腰椎椎間板ヘルニアに対するNSAIDs単独による治療効果について十分に示した研究はない。

背景・目的
腰痛を生じる疾患の1つである腰椎椎間板ヘルニアに対して、臨床現場ではNSAIDsが処方されているが、その効果について客観的に評価されていないことも事実である。

解 説
21世紀型医療開拓推進研究事業による腰痛の薬物療法に関するエビデンス研究では、腰痛疾患に対する薬物療法の有用性を検討した。Mauritsの指摘する二重盲検試験の条件に該当する論文を検索し、わが国における腰痛治療に用いられているNSAIDsおよび筋緊張弛緩薬の有効性を調べた。 各論文の対照薬がさまざまであること、腰痛の評価基準が一定でないことから、それぞれの研究を相互に比較することは困難であるが、Mauritsの基準に照らし合わせ、これら薬剤の腰痛に対する使用は妥当であることを指摘した(DJ10001, EV level 1)。 15〜65歳の50例の腰痛+坐骨神経痛患者に対するindomethacin(25 mgを1日3回内服)あるいはplaceboの投与による症状への治療効果を検討した研究では、症状の緩和は投与後2週間でindomethacin投与群23例中16例、placebo投与群22例中14例でみられ、疼痛軽減に関して両群間に有意差はみられなかった。 SLRテスト陽性所見、反射異常、感覚障害、母趾背屈力低下に対しても同様にindomethacin内服による効果はみられなかった。 このことから腰痛+坐骨神経痛例に対してのindomethacinの投与は明らかな効果がないと結論している。 この論文では神経根障害にはヘルニアによる明らかな圧迫だけではなく椎間板組織による化学的な影響があることを主張し、このため対象とした50例のヘルニアの明らかな突出に関しては言及していない(DF10001, EV level 5)。 一方、32〜79歳(平均55歳)の37例の腰痛患者(変形性脊椎症、変性性脊椎病変、坐骨神経痛、あるいは非特異的な腰痛を含み、悪性疾患、炎症、すべり症は除外)に対する2週間のnaproxen sodium(550 mgを朝夕各内服)、diflunisal(500 mgを朝夕各内服)あるいはplaceboの投与による腰痛(global pain、夜間痛、動作時痛、起立時痛)への治療効果が、randomized、3-way、double-blind、cross comparison法で検討された。 その結果、naproxen sodium投与群がplacebo群に比べ、疼痛の4段階評価法、および10 cm visual analogue scale法共に有意差をもって腰痛の抑制効果を示した。 一方、diflunisal投与群はplacebo群と比べ有意な腰痛抑制効果が示されなかった。 しかし腰椎椎間板ヘルニア例数の記載はなく、disc lesionが4例と表示されていることから、この結果が腰椎椎間板ヘルニア例に対するnaproxen sodiumの治療効果を示すとは言いがたい(DF10003, EV level 5)。 一方、17〜80歳(平均42.5歳)の81例の腰椎椎間板ヘルニア例に対するetodolac(selective cyclo-oxygenase-2 inhibitor)(200 mgを1日2回内服)の1〜2週間投与による治療効果がclinical trialとして検討された。 投与後の評価は日本整形外科学会腰痛治療成績判定基準を用いて行われ、腰痛、下肢痛、しびれ、歩行、SLRテスト、知覚障害、ADLの各項目について、内服前に比べて有意な改善がみられ、胃障害などの消化管障害も極少数例であったことより、腰椎椎間板ヘルニアの治療においてetodolacは有効で使用に耐え得る薬剤であると結論した。 しかし、この報告では他の薬剤の併用(他のNSAIDs 3症例、筋緊張弛緩薬26症例など)がみられ、またplaceboを用いたcross-over studyも実施していない点が最大の弱点と考えられる(DF00556 , EV level 7)。
したがって、腰椎椎間板ヘルニアに対するNSAIDsの治療効果に関しては、NSAIDsの種類による差を詳細に検討する必要があること、理学療法などの付随する治療効果を除外する必要があることなど多数の検討すべき課題が残されている。 一方、NSAIDsの効果がまったくみられないとする報告はきわめて少なく、腰椎椎間板ヘルニア治療における効果については全面的には否定できないと考えられる。

文 献
1) DJ10001 高橋和久:第4章,腰痛の薬物療法に関するエビデンス.科学的根拠(Evidence Based Medicine,EBM)に基づいた腰痛診療のガイドラインの策定に関する研究.厚生科研(21世紀型医療開拓推進研究事業):199-247,2001
2) DF10001 Golgie I:A clinical trial with indomethacin(Indomeeィ)in low back pain and sciatica. Acta Orthop Scand 39:117-128, 1968
3) DF10003 Berry H, Bloom B, Hamilton EBD et al:Naproxen sodium, diflunisal, and placebo in the treatment of chronic back pain. Ann Rheum Dis 41:129-132, 1982
4) DF00556 Hatori M, Kokubun S:Clinical use of etodolac for treatment of lumbar disc herniation. Curr med res Opin 15:193-201, 1999

 

 
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