(旧版)腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン
第2章 病 態
3 下肢痛は椎間板ヘルニアに必発の症状であるか
要 約
【Grade C】
腰痛のみで下肢痛を認めない椎間板ヘルニア症例が存在する。
坐骨神経痛は膨隆型に比べて脱出型椎間板ヘルニアにより強く認められ、発現機序としては圧迫より炎症との関連が考えられている。
【Grade C】
腰痛のみで下肢痛を認めない椎間板ヘルニア症例が存在する。
坐骨神経痛は膨隆型に比べて脱出型椎間板ヘルニアにより強く認められ、発現機序としては圧迫より炎症との関連が考えられている。
背景・目的
坐骨神経痛を代表とする下肢症状は椎間板ヘルニアの特徴とされているが、髄核摘出術後に腰痛が劇的に消失する症例を経験する。 ここでは下肢痛が椎間板ヘルニアに必発の症状であるか否かについて検討するとともに、下肢痛の発現に最も関与する因子として神経根圧迫や炎症について検討する。
解 説
椎間板ヘルニア37例と椎間板障害19例の疼痛の分布を詳細に比較した報告では、椎間板障害では下肢痛は42%にみられ、腰痛のみの症例を58%に認めたのに対し、椎間板ヘルニアでは下肢痛は91%にみられ、腰痛のみの症例は9%にすぎなかったとしている(DJ00674, EV level 9)。
坐骨神経痛を有する椎間板ヘルニア280例について、症状の経過を検討している論文には、90%以上の患者が1回以上の先行する腰痛を経験しており、入院の原因となった坐骨神経痛の発現についてはかなりのばらつきがあるものの、腰痛が平均3.5週先行して認められたと述べられている(DF04151, EV level 9)。
ヘルニアの形態と臨床症状との関連を検討した論文では、下肢痛のみの27例では96%がextrusion typeであり、また明らかに腰痛より下肢痛が強い39例では85%がextrusion typeであったのに対し、下肢痛より腰痛が強い12例では83%がprotrusionであったと報告した(DF01861 , EV level 5)。
坐骨神経痛の発現機序については、片側性坐骨神経痛の40例を観察し、C-fiber機能の障害を示唆する温覚の閾値は全体で高くなっているのに対し、冷覚の閾値は椎間板ヘルニアの圧迫が明らかな症例において高くなっている事実から、有髄神経が無髄神経より圧迫による影響を受けやすいこと、および坐骨神経痛については炎症が圧迫より重要な要因であることが示唆されたとの報告がある(DF00741, EV level 6)。
またGd-造影MRI検査の結果から、椎間板ヘルニアにより障害された神経根の40〜50%に造影効果が認められ、坐骨神経痛の重症度と関連すること、および神経根の内外に生じた炎症が坐骨神経痛の発現機序に関与することを示す論文がある[(DF01994, EV level 7)、(DJ01296, EV level 7)、(DJ01323 , EV level 7)]。
さらに炎症を生化学的に評価した論文として、椎間板ヘルニア手術例37例の組織から抽出されるロイコトリエンB4とトロンボキサンB2の濃度がnoncontained椎間板ヘルニアではcontained椎間板に比べ高いことから、noncontained椎間板ヘルニアにおいてより強い炎症が推測されるとした論文(DF01103, EV level 6)、および術中採取したヘルニア組織を免疫染色を行いCOX-2、インターロイキン-1βおよびTNF-αの局在が認められること、ヘルニア培養細胞をインターロイキン-1βおよびTNF-αで刺激してCOX-2 mRNAが誘導されること、このPGE2生産はCOX-2の選択的抑制因子である6-methoxy-2-naphtyl酢酸(6MNA)によって明確に抑制されることを示し、PGE2の生産と神経根障害との関連性を指摘した論文がある(DF00419, EV level 6)。
文 献
1) | DJ00674 | 高橋弦,中村伸一郎,須関馨:腰椎椎間板疾患における痛みの分布.臨整外32:69-75,1997 |
2) | DF04151 | Weber H:Lumbar disc herniation. A controlled, prospective study with ten years of observation. Spine 8:131-140, 1983 |
3) | DF01861 | Pople IK, Griffith HB:Prediction of an extruded fragment in lumbar disc patients from clinical presentations. Spine 19:156-158, 1994 |
4) | DF00741 | Zwart JA, Sand T, Unsgaard G et al:Warm and cold sensory thresholds in patients with unilateral sciatica:C fibers are more severely affected than A-delta fibers. Acta Neurol Scand 97:41-45, 1998 |
5) | DF01994 | Toyone T, Takahashi K, Kitahara H et al:Visualisation of symptomatic nerve roots. Prospective study of contrast-enhanced MRI in patients with lumbar disc herniation. J Bone Joint Surg 75B:529-533, 1993 |
6) | DJ01296 | 平地一彦,鐙邦芳,種市洋:造影MRIにおける障害神経根の信号増強:腰椎椎間板ヘルニア53症例の検討.脊椎脊髄ジャーナル6:383-388,1993 |
7) | DJ01323 | 森田知史,吉沢英造,小林茂:腰椎椎間板ヘルニア症例に対する造影MRIの臨床的意義.中部整災誌36:1013-1014,1993 |
8) | DF01103 | Nygaard OP, Mellgren SI, Osterud B et al:The inflammatory properties of contained and noncontained lumbar disc herniation. Spine 22:2484-2488, 1997 |
9) | DF00419 | Miyamoto H, Saura R, Harada T et al:The role of cyclooxygenase-2 and inflammatory cytokines in pain induction of herniated lumbar intervertebral disc. Kobe J Med Sci 46:13-28, 2000 |