(旧版)腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン
第1章 疫学・自然経過
2 腰椎椎間板ヘルニアの発生に影響を及ぼす要因は何か
要 約
【Grade B】
従来から報告されているように、環境因子は椎間板ヘルニア発生の要因である。具体的には労働や喫煙は要因の1つとして挙げることができる。
【Grade C】
スポーツに関しては、今のところ明らかな関係は認められず、ヘルニアの発生を誘発するとも抑制するともいえない。
【Grade B】
近年遺伝的要因の関与が指摘されており、特に若年者のヘルニアではその傾向が強い。しかし、環境要因と遺伝的要因の双方がどの程度椎間板ヘルニアの発生に影響を及ぼしているか、その詳細は十分明らかにされているとはいえない。
【Grade B】
従来から報告されているように、環境因子は椎間板ヘルニア発生の要因である。具体的には労働や喫煙は要因の1つとして挙げることができる。
【Grade C】
スポーツに関しては、今のところ明らかな関係は認められず、ヘルニアの発生を誘発するとも抑制するともいえない。
【Grade B】
近年遺伝的要因の関与が指摘されており、特に若年者のヘルニアではその傾向が強い。しかし、環境要因と遺伝的要因の双方がどの程度椎間板ヘルニアの発生に影響を及ぼしているか、その詳細は十分明らかにされているとはいえない。
背景・目的
腰椎椎間板ヘルニアの発生の危険因子として従来から種々の要因が考えられている。 過去の報告から、現時点でどのような要因が指摘されているかを明らかにする。
解 説
■ 1 ■労働の影響について
椎間板ヘルニアの発生を職業別に検討した報告では、重労働者(ブルーカラー)のほうがホワイトカラーに比べて発生率が高いことが指摘された。 特に男性の場合、職業ドライバー、金属・機械業労働者はホワイトカラーに比べて約3倍リスクが高かった。 また女性の場合、主婦はそのリスクが最も低かった(DF03318, EV level 1)。
椎間板ヘルニア患者287人と対照群とを比較した検討では、膝伸展位、背部屈曲位にて25ポンド(約11 kg)以上の物、あるいは子どもを頻回に持ち上げる動作でヘルニア発生の危険性が高く、また持ち上げるときに腰を捻る動作も危険であるとしている(DF02101 , EV level 6)。
他に車の運転はヘルニア発生の危険因子の1つと報告されている[(DF03318, EV level 1)、(DF03959 , EV level 5)]。
以上の報告から、重労働や車の運転は椎間板ヘルニアの発生とある程度は関連があるといえる。
■ 2 ■喫煙の影響について
椎間板ヘルニアに関する疫学調査では、紙巻きたばこを1日に10本吸うと約20%ヘルニアのリスクが上がると報告しており、危険因子の1つになることが指摘されている(DF03959, EV level 5)。
22組の喫煙者と非喫煙者を含む双生児を対象にして、喫煙による椎間板変性と機能障害への影響を観察した報告では、喫煙者は非喫煙者と比較して18%椎間板変性が進んでおり、その影響は腰椎全体に及んでいた。 双生児を対象とすることで厳密な比較が行われており、この結果から喫煙は椎間板変性の進行に影響を及ぼすといえる(DF02561, EV level 5)。 しかし、ヘルニア発生のリスクが喫煙によって上がるかどうかは報告されていない。
■ 3 ■スポーツの影響について
主なスポーツ(野球、ソフトボール、ゴルフ、水泳、ダイビング、エアロビクス、ラケットスポーツ)についてヘルニア患者287例と年齢、性別、地域性等を一致させた同数のコントロール群とで比較検討したところ、ヘルニア発生については2群間に有意差はなかった(DF01948, EV level 6)。
レスリングや体操、サッカー、テニスなどの競技で、過去トップアスリートであった134人(年齢27〜39歳、平均13年の追跡調査)とコントロール群28人の比較では、腰痛の頻度は2群間で有意差はなかった。 また双方の群ともに椎間高の減少は腰痛と有意に関連していた(DF00224, EV level 5)。
ハンドボールを2,500日以上、あるいはトライアスロンを10年以上行っている40歳以上の無症状の男性現役スポーツ選手19例(41〜69歳)の腰椎MRIを検討した報告がある。 それによると画像上認める変性変化の出現頻度は、無症状の成人と比較して同程度であった(DF01250, EV level 8)。
以上の報告から、スポーツと椎間板ヘルニアとの間に明らかな関係は認められず、現時点ではスポーツがヘルニア発生を誘発するとも抑制するともいえない。
■ 4 ■遺伝的影響について
腰椎椎間板ヘルニアで手術を行った38例の一親等以内の親族(椎間板群)と、上肢疾患と診断され腰椎椎間板性疼痛の既往のない50例の一親等以内の親族(上肢群)にアンケート調査を行った報告がある。 これによると、椎間板群の28%、上肢群の2%が腰椎椎間板性疼痛の定義にあてはまっていた。 また椎間板群の7例が腰椎椎間板性疼痛のために手術を受けていたが、上肢群に手術を受けた例はなかった。 以上より、腰椎椎間板性の疼痛や損傷は家族性に起こりやすいと結論した(DF01121, EV level 6)。
21歳以下の腰椎椎間板ヘルニア手術群63例と対照群を比較した報告では、手術群では32%に家族歴があったが対照群では7%であり、約5倍の頻度で若年者の椎間板ヘルニアにおいては家族性の素因を有していた(DF02430, EV level 5)。
18歳以下で手術を行った椎間板ヘルニア40例と、年齢・性別をマッチングした対照120例を調査した報告でも、対照群と比べて家族性素因が認められた(odds ratio 5.61)(DF02343 , EV level 6)。
以上の報告から、椎間板ヘルニアの発生にはある程度は遺伝的要因が関与すると考えられ、特に若年性椎間板ヘルニアでは明らかに家族集積性があるといえる。
また、変性のない椎間板からヘルニアが発生することはないので、椎間板変性はヘルニアの発生に直接的には関連しないもののある程度は関与しているといえる。 椎間板変性と遺伝的要因との関連にはいくつかの報告がある。
20組40人の男性の双子を対象にした調査では、MRI上椎間板の輝度や椎間高に対する影響は、双子であることが喫煙や年齢の10倍影響を与えると報告されている(DF01473, EV level 9)。
腰椎変性疾患で手術を行った65例と、年齢・性別でマッチングした脊椎以外の疾患で手術を行った67例を対象にした報告では、腰椎変性疾患で手術を行った群では44.6%に腰椎変性疾患の家族歴があった。 一方脊椎以外の疾患で手術を行った群では25.4%に腰椎変性疾患の家族歴があり、両群間に有意差を認めた。odds ratio analysisでは2.37倍で、腰椎変性疾患で手術を行った群のほうが腰椎変性疾患の家族歴があったと報告されている(DF01379 , EV level 6)。
しかしながら、環境要因と遺伝子的要因の双方がどの程度椎間板ヘルニアの発生に影響しているかはいまだ明らかになっていない。
文 献
1) | DF03318 | Heliovaara M:Occupation and risk of herniated lumbar intervertebral disc or sciatica leading to hospitalization. J Chron Dis 40:259-264, 1987 |
2) | DF02101 | Mundt DJ, Kelsey JL, Golden AL et al:An epidemiologic study of non-occupational lifting as a risk factor for herniated lumbar intervertebral disc. The Northeast Collaborative Group on Low Back Pain. Spine 18:595-602, 1993 |
3) | DF03959 | Kelsey JL, Githens PB, O'Conner T et al:Acute prolapsed lumbar intervertebral disc. An epidemiologic study with special reference to driving automobiles and cigarette smoking. Spine 9:608-613, 1984 |
4) | DF02561 | Battie MC, Videman T, Gill K et al:Smoking and lumbar intervertebral disc degeneration:An MRI study of identical twins. Spine 16:1015-1021, 1991 |
5) | DF01948 | Mundt DJ, Kelsey JL, Golden AL et al:An epidemiologic study of sports and weight lifting as possible risk factors for herniated lumbar and cervical discs. The Northeast Collaborative Group on Low Back Pain. Am J Sports Med 21:854-860, 1993 |
6) | DF00224 | Lundin O, Hellstrom M, Nilsson I et al:Back pain and radiological changes in the thoraco-lumbar spine of athletes. A long-term follow-up. Scand J Med Sci Sports 11:103-109, 2001 |
7) | DF01250 | Healy JF, Healy BB, Wong WH et al:Cervical and lumbar MRI in asymptomatic older male lifelong athletes:Frequency of degenerative findings. J Comput Assist Tomogr 20:107-112, 1996 |
8) | DF01121 | Richardson JK, Chung T, Schultz JS et al:A familial predisposition toward lumbar disc injury. Spine 22:1487-1493, 1997 |
9) | DF02430 | Varlotta GP, Brown MD, Kelsey JN et al:Familial predisposition for herniation of a lumbar disc in patients who are less than twenty-one years old. J Bone Joint Surg 73A:124-128, 1991 |
10) | DF02343 | Matsui H, Terahata N, Tsuji H et al:Familial predisposition and clustering for juvenile lumbar disc. Spine 17:1323-1328, 1992 |
11) | DF01473 | Battie MC, Haynor DR, Fisher LD et al:Similarities in degenerative findings on magnetic resonance images of the lumbar spines of identical twins. J Bone Joint Surg 77A:1662-1670, 1995 |
12) | DF01379 | Simmons ED Jr, Guntupalli M, Kowalski JM et al:Familial predisposition for degenerative disc disease. A case-control study. Spine 21:1527-1529, 1996 |