(旧版)腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン

 
第1章 疫学・自然経過


はじめに
『疫学・自然経過』のサイエンティフィックステートメントの作成は、以下の3施設と共に担当した。
1.鹿児島大学医学部整形外科
2.総合せき損センター
3.長崎労災病院 勤労者脊椎・腰痛センター

抽出された459論文のアブストラクトを詳細に検討し、最終的に選択した115論文を十分査読してアブストラクトフォームを作成した。この結果リサーチクエスチョンはあらかじめ検討された項目の中から以下の6つにしぼられた。

1.腰椎椎間板ヘルニアの有病率や性差、好発年齢、好発高位は?
2.腰椎椎間板ヘルニアの発生に影響を及ぼす要因は何か?
3.自然消退する椎間板ヘルニアの画像上の特徴は?
4.ヘルニアの脱出形態の違いにより縮小・消失傾向に差があるか?
5.椎間板ヘルニアはどのくらいの割合で自然消退するか?
6.椎間板ヘルニアはどのくらいの期間で自然縮小するのか?


腰椎椎間板ヘルニアは腰・下肢痛をきたす代表的な疾患として広く知られていて、過去に多くの報告がなされてきたが、今のところ明確な一定の診断基準は確立されていない。本章作成において、まず疫学に関しては有病率や罹患率を明確に示した報告はなかった。現状では、軽微な症状しか有さず医療施設を受診しない例や、受診はしても診断確定に至る前に症状が軽快する例も相当数存在し、その実態を把握するのはきわめて困難である。
現在ではCTやMRIにより、画像上のヘルニアの有無を比較的容易に判断できるようになった。しかし、それ以前は手術によってヘルニアを確認した症例に対してのみ確定診断がなされており、性差や好発年齢、好発部位についての過去の報告でも母集団は手術症例に限定されたものであった。
本疾患の発生要因として、従来から労働や喫煙などの環境因子が指摘されてきた。近年では遺伝的な要因の関与が指摘されており、特に若年者でその傾向が強いことが明らかになっている。しかし、各因子がどの程度影響しているか、詳細は不明である。
本疾患で医療施設を受診する場合、腰・下肢痛のために日常生活や仕事・スポーツにかなりの程度支障をきたしていることが多い。進行性の下肢筋力低下や膀胱・直腸障害を呈している場合、あるいは疼痛コントロールが困難な場合には早い段階で手術療法が選択され、その他の大多数の症例では安静を含め、何らかの保存療法が行われている。このような背景から、現時点では治療がまったく介入しない厳密な意味での長期自然経過は不明であると言わざるを得ない。画像診断技術の発達によりヘルニアの自然縮小が報告されてはいるが、すべての症例について、その予後を予測することは今のところ困難である。

本章のまとめ
腰椎椎間板ヘルニアの発生頻度について大規模な調査結果の報告は今のところない。手術で椎間板ヘルニアを確認した複数の報告をまとめると、本疾患の発生は男性に多く、好発年齢は20〜40歳代、好発高位はL4/5、L5/S1、次いでL3/4間である。
発生要因に関して、従来から労働や喫煙などの環境因子が指摘されてきたが、近年の疫学的研究から遺伝的要因が影響していることは明らかである。
画像診断技術の発達により、ヘルニアのサイズが大きいものや、遊離脱出したもの、MRIでリング状に造影されるものは高率に自然縮小することが明らかになっているが、縮小するまでの期間や縮小するヘルニアの割合を明確にした報告は今のところない。

今後の課題
わが国における腰椎椎間板ヘルニアの詳細を、統一した定義に従って明らかにすることが急務である。これにより、今回リサーチクエスチョンとして取りあげられながら答えが出せなかった人種、地域、生活習慣などの因子に関しても各国の報告と比較検討することが可能となり、事実解明の糸口となり得る。また、画像診断技術のさらなる進歩により、多くの新しい知見が報告されることも期待される。大多数を占める未治療あるいは保存療法例を含めた本疾患の調査結果が明らかにされることで、本章の内容は将来大きく変わる可能性がある。

 

 
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