(旧版)腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン

 
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1.1 はじめに
腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドラインを日本整形外科学会の事業の一つとして作成した。診療ガイドラインとは質の高い新しい情報に基づいて医療を提供するのに役立つ素材である。患者と主治医がよりよい解決策を探って行こうとするときに、その手引きとして傍らにあるのが診療ガイドラインであり、患者を診療ガイドラインに無理に当てはめるものではない。なぜ医師がそのような治療をするのかを患者に説明するうえでも利用しやすい資料となる。診療ガイドラインとは95%以上の患者に対応するようなスタンダードではなく、約60〜95%程度の患者をカバーするものである。このガイドラインを作るにあたっては、厚生労働省から補助金を受けたが、特定の団体に利益が偏らないように細心の注意を払った。
最初に腰椎椎間板の突出が坐骨神経痛を引き起こし得ると考えたのは、1911年のGoldthwaitにさかのぼる。1934年、MixterとBarrの発表から腰椎椎間板ヘルニアの手術が徐々に世の中に広まっていったことは周知の事実である。腰椎椎間板ヘルニアは髄核を取り囲んでいる線維輪の後方部分が断裂し、髄核が断裂部から後方に逸脱することにより神経根、馬尾が圧迫されて発症する病態と考えられている。しかし、診療ガイドライン作成中に腰椎椎間板ヘルニアという診断名が統一されたものではないことに気づいた。このために策定委員会としては腰椎椎間板ヘルニアの診断基準を提示する必要があると考え、討議を重ねた結果、表1のような診断基準を提唱することとした。
近年、腰椎椎間板ヘルニアの発症素因、ヘルニアの発症機序、ヘルニアの消退機序などが解明されつつある。これらの科学的根拠から、従来から行われてきた治療法は今後劇的に変化すると考えられる。その一方で、現在腰椎椎間板ヘルニアの治療法としては、膀胱直腸障害を呈した急性馬尾麻痺症例など一部を除き明確な治療法の概念がなく、種々異なった治療法が選択されているのが現状である。また、わが国ではさまざまな民間療法が盛んに行われており、なかには不適切な取り扱いを受けて大きな障害を残す例も認められている。このような明確な基準のない腰椎椎間板ヘルニアの診断基準と治療体系に対して、診療ガイドラインを作成することにより有効で効率的な治療の助けになると考えた。

表1 腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン策定委員会提唱の診断基準
 1 腰・下肢痛を有する(主に片側、ないしは片側優位)
2安静時にも症状を有する
3SLRテストは70°以下陽性(ただし高齢者では絶対条件ではない)
4MRIなど画像所見で椎間板の突出がみられ、脊柱管狭窄所見を合併していない
5症状と画像所見とが一致する

 

 
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