(旧版)大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン (改訂第2版)
第9章 大腿骨頚部/転子部骨折のリハビリテーション
■ Clinical Question 1
入院中のリハビリテーションは何が有効か
解説
患者に対しては,術前から上肢機能訓練や健側下肢機能訓練,また患肢足関節機能訓練を行うことが有用であり,呼吸理学療法,口腔内ケアも行うことが望ましい. 術後は翌日から座位をとらせ,早期から起立・歩行を目指して下肢筋力強化訓練および可動域訓練を開始する.歩行訓練は平行棒,歩行器,松葉杖,T字杖歩行と進めることが多い.特別なリハビリテーションメニュー(患者教育,強力な筋力訓練,歩行指導,作業療法,電気筋刺激など)が試みられ,それぞれの報告では一部のアウトカムにおいて有効性が認められている.しかしsystematic reviewではその研究デザインやアウトカム設定に問題があると指摘され,エビデンスとしては一定の結論に至っていないので,確立したリハビリテーションメニューはない. 最近ではmultidisciplinary rehabilitationの早期からの導入が施行されている.有効性は限られているものの,軽度・中等度認知症を有する患者に対しては有効との報告がある. |
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補足説明 | |
multidisciplinary rehabilitation(集学的リハビリテーション,多角的リハビリテーション)とは各専門職種の協力の下に行うリハビリテーションであり,その内容としては,整形外科医,老年科医,理学療法士,作業療法士,看護師,栄養士,社会福祉士などのチームによって術後から退院後までのプランニングと訓練の実施を行うものである. |
エビデンス
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リハビリテーション内容(運動療法)についてのCochrane reviewでは,通常と異なるリハビリテーションが術後成績に有効であるというエビデンスは高くない(F2F01133, EV level I-2). |
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平均73歳の100例の患者に,理学療法1日1回の対照群と2回の介入群の比較を行ったところ,術後9週での回復状況に差はなかった.股関節外転筋力に差はなかった.入院期間に差はなかった.死亡率に差はなかった(F1F10027, EV level II-1). |
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平均80歳の88例の術後患者に対するintensive理学療法(週6時間)の介入群44例と標準的理学療法対照群の44例のRCTにおいて,介入群で脱落例が多く,入院期間や下肢筋力に差はなかった(F2F01178, EV level II-1). |
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80例の患者で,標準的理学療法の対照群40例と,標準的理学療法+四頭筋強化訓練(11session training)の介入群40例の2群でRCTを行ったところ,6週後の比較介入群において運動機能[95%CI 2.5(1.1〜3.8)]が有意に優れ,下肢筋力(p ≦0.001),Barthel index(p ≦0.05)も優れていた.16週後では運動機能は有意[95%CI 1.9(0.4〜3.4)]に優れ,QOLが有意に高かった(p =0.0185).死亡率には差はなかった(F1F10028, EV level II-1). |
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平均83.5歳の40例に,通常の歩行訓練の対照群20例とトレッドミルを用いた歩行訓練介入群20例の2群でRCTを行った.トレッドミル群で入院期間には差はないが,退院時の歩行指標,下肢筋力,移動能力で優れていた(F1F05096, EV level II-1). |
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65歳以上の114例に対して術後の患者教育および特別リハビリテーションメニュー(16種のstrength training sessions)を行った結果,骨折後4ヵ月までの医療費の削減効果があった(F1F00432, EV level II-1). |
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65歳以上の大腿骨近位部骨折患者100例に対して,術後5日以降に作業療法(ADL訓練として離床,整容,着衣,トイレ,入浴)を毎日45〜60分個別訓練を行う介入群50例と,通常の術後療法を行う対照群50例とRCTにて比較したところ,作業療法群で早期にADLの回復と,家庭復帰をもたらした(F2F00127, EV level II-1). |
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75歳以上の女性患者24例について,RCTを行って大腿四頭筋の電気刺激を術後1週間から1日3時間で6週間行う介入群12名と対照群12名を比較したところ,介入群において術後7週から13週で歩行速度の有意な改善(-0.13m/s,95%CI-0.23〜-0.01)を認めた(F2F00597, EV level II-1). |
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284の病院からの1,880例のコホート研究で,頻回(週5日以上)の理学療法と作業療法は歩行獲得を早め,術後6ヵ月の生存率を高めた(F1F02585, EV level II-2). |
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multidisciplinary rehabilitationについてのRCTでは,70歳以上の199例の患者の介入群102例と対照群97例の比較にて,4ヵ月間の介入群で術後4ヵ月後および1年後の活動性や歩行能力が有意に優れていた(RR 2.51,95%CI 1.00〜6.30),(RR 3.49,95%CI 1.31〜9.23)(F2F02609, EV level I-1). |
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術後理学療法の効果についてのsystematic reviewでは,最も高いエビデンスレベルとして軽度・中等度認知症を有する患者に対してはmultidisciplinary rehabilitationが有効との報告がある(F2F02376, EV level I-2). |
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multidisciplinary rehabilitationについて11の研究の2,177例のmeta解析では, poor outcome(死亡または施設入所)が16%減少(RR 0.84,95%CI 0.73〜0.96)するが,入院期間,死亡率,身体機能についての効果は一定していない(RR 1.07,95%CI 1.00〜1.15)(F2F02610, EV level I-2). |
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multidisciplinary rehabilitationについてのCochrane reviewでは,9つの研究で1,887例の患者について死亡率と施設入所のリスク軽減の効果は見られなかった(RR 0.93,95%CI 0.83〜1.05)(F2F01110, EV level I-2). |
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243例の患者について老人病棟でのチームリハビリテーションの効果を検討した.チームリハビリテーション介入群120例と対照群123例の比較にて,サブ解析によりmild,moderate dementia患者は介入群で在宅復帰率が有意に高かった(F2F00693, EV level II-1). |
文献