(旧版)大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン (改訂第2版)
第8章 大腿骨頚部/転子部骨折の周術期管理
8.3.輸液バランス・輸血
8.3.輸液バランス・輸血
■ Clinical Question 6
輸血の適応は何によって判断するか
推奨
【Grade B】
輸血の適応はヘモグロビン値のみではなく,臨床症状を重視して決定することを推奨する.
解説
従来,輸血の決定はヘモグロビン(Hb)値や医師の経験によって行われていた.この方法では不必要な輸血が多いといわれている.そこで,近年ではHb値とともに貧血の身体徴候(胸痛,頻脈,低血圧,尿量減少など)を基準にする方法が提唱されている.一般には赤血球輸血はHb 10g/dL以上ではほとんど必要なく,Hb 6g/dL以下ではほとんどの場合に必要である.
サイエンティフィックステートメント
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臨床症状を重要視して輸血の決定を行う方法と,Hb値で決定する方法とを比較すると,前者で輸血量が有意に少なく,死亡率や合併症の発生に両群間で有意差はなかったとする中等度レベルのエビデンスがある(EV level II-1). |
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輸血施行の一定の基準を作成することにより輸血量が大幅に減少したとする低いレベルのエビデンスがある(EV level IV). |
エビデンス
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大腿骨頚部骨折患者84例を,Hb値が10g/dL未満の症例を,有症状性輸血群(貧血の症状を有する症例またはHb 8g/dL未満群)と閾値輸血群(Hb 10g/dLを維持するために輸血を行う群)に分け,術後60日での死亡率,罹患率,機能状態を比較検討した結果,両群間に有意差はなく,有症状性輸血群では輸血量が少なかった(F1F02497, EV level II-1). |
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術後3年間フォローできた大腿骨転子間骨折患者64例の性差,年齢,在院日数,ヘマトクリット(Ht),輸血量を調査し輸血使用の指針を検討した.その結果,輸血を受けた群では入院時のHt値や失血量,Htの最低値が有意に低かった.23%は失血量を超えて輸血が行われ,これらの症例は失血量より少ない輸血が行われた症例と比較して利益があるとする確証は得られなかった.したがって,術後の輸血の決定は貧血症状があれば同種血輸血を,貧血症状がないが出血が予想される場合にはエリスロポエチンの投与を行い,出血が予期されない場合には経過観察で良い(F1F04534, EV level III-2). |
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13施設におけるRCTで1981年から1994年の間に手術を受けた18歳以上の患者2,083例(女性:70.3%,平均年齢57±17.7歳)を調査した.Hb 7.1〜8.0g/dL群;30日死亡者0人(upper 95%Cl:3.7%),有病率9.7%(95%Cl:4.4〜17.0%),Hb 4.1〜5.0g/dL群;30日死亡者34.4人(95%Cl:18.6〜53.2%),有病率57.7%(95%Cl:36.9〜76.6%)で,術後Hb 4.1〜5.0g/dL群で死亡率・有病率ともに著しく高かった.Hb 8.0g/dL以下の死亡率は,Hbが1.0g/dL低下するに従って2.5倍(95%Cl 1.9〜3.2)増加する(F2F03908, EV level II-2). |
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American Society of Anesthesiologists Task Forceの輸血の適応基準は不十分な酸素供給から生じる合併症の危険性から判定すべきである.一般には赤血球輸血はHb 10g/dL以上ではほとんど必要なく,Hb 6g/dL以下ではほとんどの場合に必要である(F2F03911, EV level I-2). |
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60歳以上の大腿骨頚部/転子部骨折患者8,787例を調査した.30日死亡率は4.6%(n =402,95%Cl 8.4〜9.6),90日死亡率は9.0%(n =788,95%Cl 8.4〜9.6)であった.3,699例(42%)が輸血を受け,輸血基準値(8.0〜10.0g/dL)群では,55.6%が輸血を受け,輸血基準(8.0g/dL以下)群では,90.5%が輸血を受けていたが,術後輸血は,30日・90日死亡率に影響しなかった(F2F03910, EV level III-3). |
文献