(旧版)大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン (改訂第2版)
第7章 大腿骨転子部骨折の治療
7.7.予後
7.7.予後
■ Clinical Question 16
生命予後
解説
大腿骨転子部骨折のみの生命予後に関する文献は少ない.大腿骨頚部/転子部骨折後の死亡率は,術後3ヵ月では5.1〜26%,6ヵ月では12〜40%,1年では9.8〜35%である.日本の報告では1年での死亡率は9.8〜10.8%である.生命予後を悪化させる因子は,高齢,長期入院,受傷前の移動能力が低い,認知症,男性,心疾患,body mass index(BMI)低値(18kg/㎡未満),術後車椅子または寝たきりレベル,骨折の既往などである.また,術前の生活が自立していたものは死亡率が低い.
エビデンス
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米国において大腿骨近位部骨折に罹患した患者の骨折後1年の死亡率は20%,さらに20%はなんらかの介助なしには歩行できていない(F1F05609, EV level II-2). |
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ヨーロッパでは大腿骨頚部骨折(内側,外側を含む)を起こした患者は6ヵ月以内に12〜40%が死亡し,死亡率は同じ年齢・性別に比べ12〜20%高い(F1F04627, EV level II-2). |
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大腿骨近位部骨折1,217例(転子部骨折48%)のうち,1年間追跡できた1,196例の解析.平均年齢76.8(50〜102)歳.死亡率は受傷後120日,1年,2年でそれぞれ6%,11%,19%であった.死亡率を増加させる因子として80歳以上,認知症あり,男性,心疾患あり,BMI 18kg/㎡未満,術後車椅子レベルもしくは寝たきり,骨折の既往(反対側の骨折を含む)が見出された(F1F02154, EV level II-2). |
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大腿骨近位部骨折(頚部および転子部)612例で,死亡率は入院中,術後3・6・12ヵ月にて各々3.9%,6.5%,8.8%,12.7%.1年時死亡率は,男性が女性の2倍.1年時死亡率を下げるためにできることは術後合併症を減少させることである(F1F02834, EV level II-2). |
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転子部骨折563例について調べたところ,術後最初の1年間での死亡率は18%で10年では74%であった.術後の死亡率は受傷時の年齢が高く,入院期間が長く,男性,受傷前の移動能力が低いほど高い傾向がみられた(F1F05450, EV level II-2). |
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大腿骨近位部骨折1,000例で,手術群の入院中の死亡率は11.3%.保存療法では60%.手術の遅れは障害を起こしやすいが,30時間以内ならば問題がない(F1F04025, EV level II-2). |
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大腿骨近位部骨折1,333例について手術に用いられた麻酔法の違いによる死亡率を比較.全身麻酔(全麻)950例(平均年齢79歳),腰椎麻酔(腰麻)383例(平均年齢80歳).頚部骨折に対する骨接合の術後30日の死亡率:全麻4.5%,腰麻2.4%.頚部骨折に対する人工骨頭の術後30日の死亡率:全麻8.9%,腰麻11.3%.外側骨折に対するDHSなどの術後30日の死亡率:全麻11.1%,腰麻9.2%.全体では術後30日死亡率:全麻8.8%,腰麻9.4%,有意差なし.術後1年死亡率:全麻32.6%,腰麻36.9%,有意差なし(F1F03912, EV level II-2). |
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90歳以上の大腿骨近位部骨折89例では,平均在院日数18.2日.術後3ヵ月以内に19例21.3%が死亡.69%は術後に以前の住居生活となった.生存者の50%は術後3ヵ月以内で自立歩行か軽い監視歩行となった.3ヵ月以内の死亡例の予測関連因子はトイレ動作の要介護,認知能力障害であった.効率的自立歩行の予測因子は術前の排泄コントロールと認知能力の良さと,入院中に褥瘡形成しなかったことであった.90歳以上の高齢者の骨折例は周術期の死亡率も低く,骨折後も以前の住居での生活になる例がしばしばみられるが,歩行能力の回復は限られていた(F1F00589, EV level II-2). |
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大腿骨近位部骨折338例で,10.5%が4ヵ月,28.5%が1年までに死亡した.死亡率は受傷時年齢の増加に伴い上昇した.来院時に確認できる,4つの単純な因子(受傷前の歩行能力,入院前の住居,年齢,性別)により,死亡率は正確には予測できない(F1F03499, EV level II-2). |
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大腿骨近位部骨折1,007例で,死亡率は術後1ヵ月で12.2%,1年で30.1%(F1F04897, EV level IV). |
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大腿骨頚部,転子部,転子下骨折の症例:1946〜1955年の727例中500例手術(69%)と1982〜1986年の386例中379例手術(98%)の術後4週までの死亡率は13%から4.2%へ著明に減少した.死亡率が減少した要因として内科的な治療,麻酔技術が進歩したことと早期リハビリテーションおよびこれを可能とした内固定材料の改良が考えられた(F1F05480, EV level IV). |
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大腿骨近位部骨折918例の生命予後の検討では,男性が女性の2倍,10歳年長者が年少者より1.8倍,認知症の合併者が認知症のない人より1.9倍死亡する確率が高かった(それぞれp <0.05)(F1J01530, EV level III-3). |
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大腿骨近位部骨折138例の生存率は1年で89.2%,5年で56.1%であった(F1J01466, EV level IV). |
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65歳以上の大腿骨近位部骨折患者92例の生命予後について調査し,死亡率は術後3ヵ月で5.1%,12ヵ月で16.3%.①骨折の有無は長期生存に関係ないが,短期生存には影響が大きい.② Hb,Ht,BUN,Cr,呼吸機能は死亡率と関係ある.貧血,肺,腎機能などの合併症を改善させて手術に臨むのが良い(F1J01607, EV level IV). |
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高齢者大腿骨近位部骨折313例の生命予後,機能予後を調査したところ,平均生存期間は72±4ヵ月で,影響を与える合併症は心疾患,認知症,呼吸器疾患,腎機能障害,悪性腫瘍,電解質異常ならびに貧血であった(F2J00759, EV level IV). |
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大腿骨頚部骨折,転子部骨折の術後1年で経過観察可能であった177例178骨折(頚部骨折:98,転子部骨折:80)の死亡率は,60歳以上で8.3%,70歳以上で9.8%,80歳以上で12.5%,90歳以上で17,4%であった(F2J00404, EV level IV). |
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大腿骨近位部骨折430例の死亡率は100日で13.7%,1年で24.9%で,影響を与えた因子は性別,年齢,ASA scoreであった(F2F00393, EV level IV). |
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sliding hip screwで治療した大腿骨転子部骨折1,024例の死亡率は,術後30日で7.9%,90日で17.6%,6ヵ月で23.6%,1年で31.5%であった.死亡率に影響した因子は年齢,性別,ASA score,移動能力であった(F2F01525, EV level IV). |
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10,992例の大腿骨近位部骨折(頚部骨折:4,537例,転子部骨折:6,217例)の調査では,1年後の死亡率は10.1%であった(F2F02466, EV level II-2). |
文献