(旧版)大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン (改訂第2版)
第7章 大腿骨転子部骨折の治療
7.7.予後
7.7.予後
■ Clinical Question 15
歩行能力はどの程度回復するか.また,歩行能力回復に影響を及ぼす因子は何か
解説
受傷後,適切な手術を行い,適切な後療法を行っても,すべての症例が受傷前の日常活動レベルに復帰できるわけではない.歩行能力回復には受傷前の歩行能力と年齢が大きく影響する.術前の生活が自立していたものは自宅への退院が可能なものが多く,年齢が高いと歩行能力が落ちるものが多い.その他,骨折型(不安定型が不良),筋力,認知症が機能予後に影響する.
エビデンス
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転子部骨折155例に対するAO dynamic hip screw(DHS)またはJewett nail plate(JNP)による固定では,術前の生活が独立していたものは自宅への退院が可能なものが多かった.年齢が高いと歩行能力が落ちた(p <0.01)(F1F05448, EV level III-1). |
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転子部骨折149例に対する手術後の歩行能力の経時的変化の分析では,術後3ヵ月で術前と同等の歩行能力に戻ったのは半数以下.術後3ヵ月から6ヵ月での歩行能力の改善に関与したのは,不安定型骨折,筋力の回復,疼痛の改善であった.不安定型骨折では術後3ヵ月以上リハビリテーションを継続する必要がある(F1F05575, EV level III-1). |
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日本人の大腿骨近位部骨折(内側,外側を含む)1,217例で,手術療法を92%に行い,術後1年で受傷前の歩行能力に回復したのは67%.受傷後1年時の歩行能力再獲得に有意な因子:80歳未満,受傷前の歩行能力,術後2週時のADL自立度,認知症なし,反対側の頚部骨折なし,術後2週で少なくとも屋内歩行可(F1F02154, EV level II-2). |
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1,000例の大腿骨頚部骨折(転子間476例,骨頭下524例)中,975例に手術治療を行った(254例がセメント使用,54例がセメント非使用でMonk型人工骨頭を使用した.残りは骨接合術で,522例にAOのDHS,83例にGarden screw,25例に他の機種,19例に骨切り術を施行した).受傷前の歩行能力,合併症,年齢,性別,骨折型,治療法,術者の経験,手術までの期間と術後の歩行能力,有病率(死亡率)と関連を調査した.退院時の歩行能力に影響する因子は,年齢と受傷前の歩行能力が最も大きく,受傷前の合併症,骨折型の順で,術者の経験はあまり影響しなかった(F1F04025, EV level II-2). |
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大腿骨近位端骨折223例224肢(転子部骨折188例)に対してGammaネイルを施行.術後6ヵ月時に介助なしに歩行が可能となったのは50例(30.7%),介助歩行が可能となったのは86例(52.8%)であった(F1F02149, EV level IV). |
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65歳以上の大腿骨近位部骨折395例を,85歳以上の超高齢群と65〜84歳の高齢群に分けて退院時歩行能力を調査したところ,歩行能獲得率は超高齢群の58%に対して高齢群では75%であった(F2J00568, EV level IV). |
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大腿骨転子部骨折に対してGammaネイルで治療した85例を調査したところ,歩行能力の低下の原因として,年齢(80歳以上),リハビリ開始時期の遅れ(6日以降),認知症,合併症の存在(心疾患,精神疾患),反対側の大腿骨頚部骨折の既往があげられた(F2J00544, EV level IV). |
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大腿骨転子部骨折94例で,認知症のある群44例とない群50例に分けて,受傷前の歩行能力および術後8週までの歩行能力を調査しその変化を観察した.全例, Enderネイルで固定し,術後1週から起立訓練,2週から全荷重歩行としている.認知症群では術後5週以降での歩行能力の改善が認められず,また,最終歩行能力も有意に低下した(F2J00706, EV level IV). |
文献