(旧版)大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン (改訂第2版)
第7章 大腿骨転子部骨折の治療
7.5.骨接合術の合併症
7.5.骨接合術の合併症
■ Clinical Question 10
カットアウトを予防するためのラグスクリューの至適刺入位置
推奨
【Grade B】
ラグスクリューのシャフトの位置を,正面像で骨頭中心かそれより遠位に,側面像で骨頭幅の中1/3に刺入する.スクリュー先端は軟骨下骨近傍まで十分に刺入する.
解説
再手術の原因として最も多いのはカットアウトである.ラグスクリューを十分深く刺入し,Tip-apex distance(TAD)が20mm以下になるとカットアウト率が下がるといわれている.

図1 TADの算出方法


図1 TADの算出方法
エックス線単純写真正面像および側面像で骨頭の頂点からラグスクリュー先端までの距離を測定する.ラグスクリュー径を基準にエックス線写真の拡大率を補正して,真の距離を算出する.正面像と側面像から求めた距離の合計をTADとする.TAD値が20以下になるとラグスクリューのcut outの危険性が低くなる.ラグスクリューの真の直径をDtrueとすると,TAD値は以下の計算式で求められる.

サイエンティフィックステートメント
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安定型骨折では整復位損失は少なく,不安定型骨折では整復位損失が多い(EV level II-2). |
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カットアウトの頻度はshort femoral nail(Gammaタイプ)では1.6〜5.3%, sliding hip screw(CHSタイプ)で1〜2.9%と報告されている(EV level II-2, EV level IV). |
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再手術の頻度はshort femoral nail(Gammaタイプ)で6〜8%,sliding hip screw(CHSタイプ)で1〜4%である(EV level II-2). |
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骨頭内のスクリュー先端の設置位置(骨頭頂点とスクリュー先端の位置関係)が重要であるとする中等度レベルのエビデンスがある(EV level II-2). |
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内固定の破綻(mechanical failure)の多くはカットアウトである(EV level II-2). |
エビデンス
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大腿骨転子部骨折に対するGammaネイル法とPFN法の比較では,Gammaネイル455例中24例(5.3%),PFN455例中17例(3.7%)にカットアウトが認められた(F2F01132, EV level II-2). |
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カットアウトはshort femoral nailでは,Gammaネイル3.0%,IMHS 1.6%,PFN 2.6%であったが,sliding hip screwでは1.9〜2.7%であった(F2F01127, EV level II-2). |
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カットアウトはKuntscher Y-nail 10%に対してSHS 15%.破損やlooseningはYネイル14%,SHS19%.GammaネイルとSHSの比較では,再手術はGammaネイル52/819に対してSHS 26/836とGammaネイルで2倍あった.カットアウト(SHSで2.9%)や創感染については有意差なし(F1F01102, EV level II-2). |
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大腿骨転子部骨折で再手術を必要としたものは378例中15例(4%).Gammaネイル177例中13例(7%),CHS 201例中2例(1%)(p <0.003).カットアウトは5例に発生し,Gammaネイルは3例(1.7%),CHSは2例(1%)であった(F1F03879, EV level II-2). |
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大腿骨転子部骨折400例(Gammaネイル:203例,Richards hip screw:197例)のうち再手術を必要としたものはGammaネイルグループで6%,Richardsグループで4%であった.ラグスクリューのカットアウトはGammaネイルグループでは8例(3.9%)に対してRichardsグループでは3例(1.5%)(F1F00733, EV level II-2). |
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転子間骨折230例(Kuntscher Y-nail 116,sliding hip screws 114)の内固定で, mechanical failureは全体の16.5%に生じ,そのうちインプラントの骨頭カットアウトが76%,その他の原因はまれであった.骨頭内でインプラントが後方に設置されたものではカットアウトが27%,中央に設置されたものでは7%.カットアウト率には整復が影響したが,年齢,歩行能力,骨密度と関係はなかった.正確な整復と骨頭内中央へのインプラントの設置が重要である(F1F05538, EV level II-2). |
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力学試験の結果から,固定性を良くするにはsliding screw plateではスクリューを良い位置に入れるのが重要で,スクリュー先端が骨頭軟骨下骨から5〜12mm,かつ正側2方向で中1/3に存在することが重要であることがわかった(F1F05481, EV level V). |
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大腿骨転子部骨折の不安定型118例においてDHS+buttress plateで固定,カットアウトは1例のみであった(F1J00785, EV level IV). |
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転子部骨折(固定はsliding hip screw)208例を少なくとも1年間追跡したところ,6例(2.9%)に再手術が必要であった.この6例は全例ラグスクリューのカットアウトが原因であった(F1F03299, EV level II-2). |
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転子部骨折216例に対してfixed angle sliding hip screwとside plateまたは髄内釘を持つ固定材により固定を行った.Tip-apex distance(TAD)が20mm以下になるように手術することにより,カットアウトを8%から0%にできた(F1F02779, EV level II-2). |
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大腿骨転子部骨折128例(安定型骨折29例,不安定型骨折99例)に対しCHS固定法を行った.安定型骨折は一般的に術後成績良好であったが,術直後の整復不良例は成績不良であった.不安定型骨折でも整復がうまく行えれば,ある程度の成績が期待できる.安定型骨折では整復位損失は少ない.不安定型骨折では整復位損失が多い.整復位損失例では歩行能力再獲得率が低い.解剖学的整復が望ましいが,骨頭骨片の内側骨皮質が遠位骨片の内側骨皮質の内方に位置する症例や,外方にあっても4mm以下の症例は骨折部が安定し,術後成績は良好.骨頭骨片が5mm以上外方に位置する症例の成績は不良で,術中整復に努めるべきである(F1J00077, EV level IV). |
文献