(旧版)大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン (改訂第2版)
第7章 大腿骨転子部骨折の治療
7.3.外科的治療の選択
7.3.外科的治療の選択
■ Clinical Question 4
骨接合術にはどのような内固定材料を用いるべきか
推奨
【Grade A】
sliding hip screw(CHSタイプ)またはshort femoral nail(Gammaタイプ)を推奨する.
解説
sliding hip screwおよびshort femoral nailは,他の内固定材料に比較して合併症が少なく,安定した臨床成績が得られている.両者間には成績に大きな差はみられない.
サイエンティフィックステートメント
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sliding hip screw(CHSタイプ)とshort femoral nail(Gammaタイプ)との比較では,成績に差がないとするものが多い.初期のshort femoral nailでは,術中・術後の大腿骨骨折のリスクが高かったが,最近のshort femoral nailではsliding hip screwと比べて骨折固定に関連する合併症に差はみられなかった(EV level I-2). |
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short femoral nail(Gammaタイプ)はreversed obliquity type,不安定型骨折に有利な可能性がある(EV level I-2). |
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sliding hip screw(CHSタイプ)とfixed nail plateの比較では,fixed nail plateは,内固定材料破損および固定失敗のリスクが高い(EV level I-1, EV level I-2). |
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Enderネイルは,手術侵襲は小さいが(EV level II-1),長期成績(再手術,疼痛,変形治癒など)が,髄外インプラント(特にsliding hip screw)に比較して劣るという高いレベルのエビデンスがある(EV level I-1, EV level I-2, EV level II-1). |
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sliding hip screw(CHSタイプ)とEnderネイルの比較 | |
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condylocephalic nails(Enderネイル)は,手術での利点(感染が少ない,手術時間が短い,出血が少ない)はあるが,骨折治癒上の合併症・再手術・疼痛・変形治癒などの点で髄外インプラント(特にsliding hip screw)に比較して劣る(F1F01093, EV level I-2). | |
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Enderネイル(59例)とCHS(90例)の比較では,Enderネイルのほうが小侵襲である[手術時間:CHSは74.8分,Enderネイルは56.1分で有意差あり(p <0.001),出血量:CHSは345mL,Enderネイルは191mLとEnderネイルが有意に低値(p <0.005).しかしEnderネイルは再手術の割合が高く(CHSで1例,Enderネイルで4例),6ヵ月時点でCHSに比べて,歩行能力が低い(F1F04852, EV level II-1). | |
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転子部骨折の手術を行った149例(男性46例,女性103例,平均77歳)の結果, Enderネイル群のほうがDHS群より,手術時間が短く(55分と83分,p <0.001),出血が少なかった(159mLと456mL,p <0.001).また6週での歩行機能も良い(Enderネイル群では14%が,DHS群では33%が10mの距離を歩けなかった)(F1F04710, EV level II-2). | |
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sliding hip screw(CHSタイプ)とfixed nail plateの比較 | |
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髄外固定インプラントでは,fixed nail plateは,sliding hip screwよりもインプラント破損および固定失敗の高いリスク(RR 4.27,95%CI 2.44〜7.45)を持つ(F1F00116, EV level I-2). | |
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成人の大腿骨転子部骨折に対する種々のnail-plate法ではfixed nail plateがインプラント破損や内固定失敗の頻度がsliding hip plateより高かった(F1F01091, EV level I-2)(F1F01092, EV level I-2). | |
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大腿骨近位部関節外骨折においてfixed nail plateはsliding hip screwよりインプラントの破損や固定の失敗を起こす危険性が高い(F1F00537, EV level I-2)(F2F03730, EV level I-2). | |
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CHS 74例,Jewett 76例の比較では術後歩行能力に差はないが,Jewettでは荷重開始までの期間が長く(部分荷重開始時期が安定型はCHS平均28.9日,Jewett平均56日,不安定型はCHS平均46.6日,Jewett平均56.6日),カットアウトが多かった(Jewettで3例)(F1J01899, EV level IV). | |
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sliding hip screw(CHSタイプ)とshort femoral nail(Gammaタイプ)の比較 | |
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成人の大腿骨転子部骨折で髄内インプラント(Gammaネイル,IMHS,PFN)と髄外インプラント(SHS)を比較すると,初期のGammaネイルでは術中・術後の大腿骨骨折のリスクと再手術率が高かった.IMHSでは,骨折固定に関連する合併症がsliding hip screwより多かった.PFNでは,特に差を認めなかった(F2F01127, EV level I-2). | |
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新型のtrochanteric Gamma nail(TGN)104例とCHS法106例の比較では,TGNのほうがイメージ時間,出血量が少なかったが,手術時間,合併症,固定の失敗については差を認めなかった.しかし,不安定型骨折では,TGNのほうが,歩行能力スコアが高かった(F2F02557, EV level II-1). | |
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CHS 210例とGammaネイル216例の比較では,手術時間はCHSが有意に短かったものの,出血量,一般的合併症,手術関連合併症,6ヵ月での骨癒合率には差がなかった.6ヵ月での整復位保持はGammaネイルのほうが有意に高かったものの,カットアウトも多く認められた(CHS:2%,Gammaネイル:8%)(F2F00975, EV level I-1). | |
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高齢者の大腿骨転子部不安定型骨折についてCHS法とIMHS法を比較検討した.手術時間はCHS法88分,IMHS法108分で有意差を認めた.麻酔方法,輸血量,入院期間,エックス線評価(Tip-apex distance)には有意差を認めなかった.術後1年時,受傷前の生活状態に戻っていたのはCHS法で22/33,IMHS法19/30であった.CHS法とIMHS法の成績はあまり差がなかった(F1F00165, EV level II-1). | |
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手術時間はCHS法57分,IMHS法71分と有意差をもってCHS法で短かった.一方,術中出血量は各々198mL,144mLと有意差をもってIMHS法で少なかった.術中骨折はIMHS法を行った3例に発生.歩行能力を評価するとIMHS群でCHS群よりも術後1および3ヵ月で有意に優れていたが,6および12ヵ月では有意差はなくなった.不安定型骨折に限ると歩行能力およびtelescoping量において IMHS群でCHS群よりも有意に優れていたが,死亡率や自宅生活への復帰率には差がなかった(F1F02298, EV level I-1). | |
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CHS法とGammaネイル法は手術時間,出血量,エックス線透視時間,輸血量,術後6.4ヵ月時の疼痛,ROM,日常生活レベルに差はなかった.入院期間(平均12日)にも差はなく,また住居も2群間に差はなかった.ただしGammaネイル法は術中,術後合併症(大腿骨骨折カットアウト)が多く手技に習熟する必要がある(F1F04123, EV level I-1). | |
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大腿骨転子部骨折に対するGammaネイルintramedullary fixationとRichards hip screw and plateを比較した.手術時間はGammaネイルでやや短いが,出血量,感染率,深部静脈血栓症に差を認めなかった.再手術を必要としたものはGammaネイル群で12例(6%),Richards群で8例(4%)であった.Harris hip scoreは両群で差がなかった(F1F00733, EV level I-1). | |
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GammaネイルとCHSを比較し,手術侵襲(出血量,輸血量),退院時歩行能力に有意差がなかった(F1J00972, EV level III-2). | |
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高齢者の大腿骨転子間骨折に関してGamma AP locking nailはCHSよりも手術時間,術中出血量が有意に少なかった(p =0.03, 0.01). 骨癒合までの時間には差を認めなかった(p =0.06).頚体角の減少はCHS群で有意に大きかった(p =0.03). 術後3ヵ月後の活動度はGammaネイル群のほうが良好であった.Gammaネイル群で大腿骨骨幹部骨折や固定の失敗を起こしたものはなかった(F1F02251, EV level I-1). | |
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peri-trochanteric fracturesに対するprospective,randomized,controlled trialとしてDHS 48例とGammaネイル47例を比較し,臨床成績とエックス線評価に差はなかったが,Gammaネイルは合併症(術後大腿骨骨折8例)が多かった(F1F03613, EV level II-1). | |
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200例の転子部貫通骨折に対してランダムにDHSとGammaネイル固定を行った結果,Gammaネイルのほうが出血は少なかったが[術中出血:DHS(250mL), Gammaネイル(120mL),p <0.05],ネイル先端での骨幹部骨折の合併症が多かった(11例)(F1F04504, EV level I-1). | |
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転子部骨折に対するhip compression screw 201例とGammaネイル177例を比較した結果,learning curveはHCSのほうがGammaネイルより早い.Gammaネイルは大腿骨骨折の合併頻度が高い.再手術を必要としたものは,Gammaネイルは13例(7%),CHSは2例(1%)(p <0.003).Gammaネイル再手術例の10例は大腿骨再骨折によるものであった(F1F03879, EV level II-2). | |
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GammaネイルとDHSを比較すると,術中・術後の大腿骨骨折の頻度がGammaネイルは2.2%,DHSは0.1%でGammaネイルのほうが高い.他の項目では両者に顕著な差はない(F1F03194, EV level I-2). | |
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GammaネイルとDHSを比較すると,出血量・合併症・入院期間・骨癒合期間・術後機能において両群の差は少ないが,局所の合併症はDHSのほうが少なかった(F1F03551, EV level I-1). | |
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Gammaネイルは術中術後の骨折と再手術が多かった.SHSのほうが合併症の少ない点でGammaネイルより優れている(大腿骨骨折はGammaネイルで24/833, SHSで4/846).Gammaネイルはある種の骨折型に有利(転子下骨折,reversed obliquity typeなど)である(F1F01102, EV level I-2). | |
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GammaネイルグループとSHSグループで臨床成績に差はないが,合併症の頻度(術中術後の骨折と再手術の割合)が少ない点でSHSが優れている(大腿骨骨折はGammaネイルで19/1,056,SHSで4/1,066)(F1F00117, EV level I-2). | |
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不安定型骨折ではintramedullary hip screwのほうが,手術時間がCHSに比べて23%短く,出血量も44%少なかった.intramedullary hip screwでは骨幹部骨折が3/67例に起こった(F1F02140, EV level II-1) | |
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Gammaネイル群とDHS群の成績(手術時間,出血量,術前後のHb値,創部合併症,入院期間,最終退院先,最終調査時の活動性)に差はなかったが,Gammaネイル群では骨幹部骨折を合併しやすかった(4/49例)(F1F05225, EV level I-1) | |
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高齢者peri-trochanteric fractureでは,GammaネイルはDHSに比べ手術侵襲,被曝時間,術中出血量が少なく,早期リハビリテーションが可能であった.(F1F04896, EV level I-1). | |
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GammaネイルはCHSに比し手術時間が短く(CHS:64分,Gammaネイル:37分),出血量が少なく(CHS:99g,Gammaネイル:47g),起立(CHS:16日,Gammaネイル:8日),全荷重歩行(CHS:21日,Gammaネイル:13日)が早かった.合併症はCHS群でカットアウトが2例に,Gammaネイル群では内反変形2例,骨幹部骨折1例が認められた(F1J01069, EV level IV). | |
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GammaネイルはDHSに比し手術時間が短く(DHS:78分,Gammaネイル:61分),歩行能力低下も少なかった(F1J01068, EV level IV). | |
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AO/OTA31-A1,A2骨折でDHS(106例)とPFN(100例)について,mobility score,social function score,跛行の有無,股関節ROM,疼痛,術前ASA score,エックス線評価を行ったが,すべての項目で有意差は認められなかった(F2F02513, EV level I-1). | |
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その他 | |
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AO/OTA31-A3(転子間不安定型)骨折でDCS 19例とPFN 20例を比較したところ,PFNのほうが,手術時間短縮,整復が容易,出血が少ない,輸血量が少ない,輸血する患者の割合が少ない,入院期間が短い,という結果を得た.さらに,内固定材料の破損や骨癒合遅延や再手術率も少なかった(再手術はDCSでは6例, PFNでは0例で,両群間で有意な差がみられた)(F1F00205, EV level II-2). | |
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PFNとGammaネイルの比較では,Gammaネイルのほうがネイルを挿入する際に刺入部や転子部が粉砕するリスクは高かったが,大腿骨の術中骨折のリスクに差はなかった.また,骨折固定の合併症,再手術,その他の合併症や術後成績に著しい相違はなかった(F2F01132, EV level I-2). | |
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PFNとGammaネイルの比較では,術中合併症,再手術率,死亡率,術後合併症,機能評価すべてにおいて差を認めなかった(F2F02080,EV level I-1). | |
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PFNとGammaネイルでは,骨折治療前までの機能的回復,骨折治癒までに要した時間には差を認めなかったが,骨幹部の骨折とカットアウトはGammaネイルで多く,PFNでは骨頭の内反が有意に多くみられた(F2F01630, EV level II-1). | |
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PFNAとGammaネイルの症例50例ずつの比較では,術中出血量はGammaネイルで多く,ラグスクリューあるいはブレード挿入時の骨折部の離開はPFNAで多く発生していたが,手術時間,telescoping量,術後在院日数には差がなかった(F2J00594, EV level III-3). |
文献