(旧版)大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン (改訂第2版)
第7章 大腿骨転子部骨折の治療
7.1.入院から手術までの管理と治療
7.1.入院から手術までの管理と治療
■ Clinical Question 1
適切な手術時期
推奨
【Grade B】
できる限り早期の手術を推奨する.
解説
最近の報告では緊急で24時間以内に手術する必要はないものの,内科的合併症で手術が遅れる場合を除いて,できるだけ早期に手術を行うべきであるという報告が多くなっている.また,わが国でも早期手術の有効性が報告されているが,現在の医療体制では欧米並みの早期手術を行うことは困難なことが多い.
サイエンティフィックステートメント
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早期手術(24時間,2日,3日,4日以内)が有効であるという中等度レベルのエビデンスがある.早期手術のほうが優れている点は,合併症が少なく,生存率が高く,入院期間が短いことである(EV level II-2,EV level III-3,EV level IV). |
エビデンス
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60歳以上の大腿骨近位部骨折患者8,383例での検討では,手術時期(入院後手術まで24〜48時間以内と96時間以上を比較)は,短期および長期の死亡率(ハザード比1.07,95%CI)に影響を与えなかった.96時間以上の手術待機は褥瘡のリスクを増加させた(オッズ比2.2)が,それ以外の治療結果(細菌感染,心筋梗塞,血栓塞栓)に悪影響を及ぼさなかった(F1F00015, EV level III-3). |
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高齢者大腿骨近位部骨折患者778例(頚部骨折:442例,転子部骨折:336例)の術後1年の死亡率は,頚部骨折では12時間以内に手術を受けたほうが26%と,12時間以降に手術された場合の35%より低かった.しかし転子部骨折では12時間以内手術例と12時間以降手術例とで差がなかった.術後合併症に関しては両群間で差がなかった.入院期間は12時間以内手術例のほうが28日と,12時間以降手術例の33日より短かった(F1F04827, EV level IV). |
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高齢者の大腿骨近位部骨折患者274例(頚部骨折:152例,転子部骨折:122例)では,手術を入院後8時間以内に行った群と48時間までに行った群との間に,術後3ヵ月と6ヵ月の死亡率および入院期間に関して差はなかった(F1F05485, EV level IV). |
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大腿骨転子部骨折100例の予後調査では,手術までの日数に治療成績(歩行能力)との関連性を認めなかった(F1J00773, EV level IV). |
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大腿骨近位部骨折患者(52〜95歳)202例の術後1年以内の死亡率は18%であった.その内訳は,受傷後3日以内に手術を行った症例が32%で,受傷後3日より後に手術を行った症例(68%)よりも少ない(F1F02518, EV level IV). |
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高齢者の大腿骨近位部骨折患者1,880例では入院後2日以内に手術をしたほうが,3日以降に行った症例に比べて入院期間が5日間短く(p <0.01),術後6ヵ月の生存率もよかった(F1F02585, EV level III-3). |
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65歳以上の女性の大腿骨近位部骨折280例で,医学的に手術に耐えられる患者においては入院後24時間以内に手術を行うことにより,術後1年および2年の生存率の改善が認められた.2年後の生存率は,年齢とmental scoreを補正した場合, day1に対するday2およびday3+のrelative hazardはそれぞれ1.67(95%CI 0.95〜2.93,p =0.07),2.68(95%CI 1.5〜4.76,p =0.0007)であった(F1F03429, EV level II-2). |
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受傷前,歩行可能で自宅生活を行っていた高齢者(65歳以上)367例の大腿骨近位部骨折では,入院後2日以内に手術を行った群(267例)が3日以降に手術を行った群と比較して,術後1年以内の死亡率が1/2である(F1F03686, EV level II-2). |
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大腿骨近位部骨折651例について調査したところ,48時間以内に手術を行った早期群が,48時間以降群に比べて,1年生存率が有意に高く,術後合併症も少ない(F2F00559, EV level III-3). |
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大腿骨近位部骨折2,903例のうち2,660例を24時間以内に手術した早期群と24時間以降に手術を行った遅延群に分けて調査したところ,死亡率,合併症の種類,発生率,術後のリハビリテーション期間に有意差は認められなかった.しかし,遅延群の中で4日以上経過して手術を行った症例では90日後,1年後死亡率が有意に増加していた(F2F02008, EV level II-2). |
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大腿骨近位部骨折3,628例の中で48時間以降に手術が行われた遅延群では,入院期間が36.5日と早期群の21.6日に比べて有意に延長した(F2F02106, EV level II-2). |
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高齢者大腿骨転子部骨折140例で,受傷後3日以内に手術が行われた早期群(91例)では,歩行開始までの期間,術後入院日数が有意に短くなっていた.合併症の発生に差はなかった(F2J00476, EV level III-3). |
文献