(旧版)大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン (改訂第2版)
第7章 大腿骨転子部骨折の治療
本章のまとめ
転位のある大腿骨転子部骨折は,機能予後・生命予後ともに手術療法が保存療法に勝っているため,手術禁忌例や患者が手術を拒否する場合を除いて手術的に治療することを推奨する.
受傷後できる限り早期に手術を実施することが望ましいが,現在,わが国では待機手術を余儀なくされている施設が多く,今後早期手術を可能とする体制作りが必要である.
入院から手術までの期間は局所の安静による疼痛軽減や手術中の整復を容易にするという目的で,直達牽引や介達牽引が行われることが多かった.骨折部の粉砕や転位が高度な場合には,骨折型の把握や手術時の整復操作を容易にする目的で術前牽引が有効な場合がある.しかし,早期手術を前提とした場合,術前牽引の有効性は証明されておらず術前牽引をルーチンに実施すべきではない.
骨折を固定するための内固定材料としてはsliding hip screw(CHSタイプ)とshort femoral nail(Gammaタイプ)の成績が安定している.整復位が良好で,骨折部の固定性に問題がなければ早期荷重を許可することができる.術後合併症としてラグスクリューのカットアウトが問題である.これを防止するためには良好な整復位を得ることと,Tip-apex distance(TAD)(p147参照)に注目して良好な位置にラグスクリューを刺入することが重要である.
転子部骨折では偽関節・骨癒合不全・late segmental collapse(LSC)はまれである.内固定材料そのものに起因する合併症がない場合は,骨癒合後の内固定材料抜去は推奨できない.
転子部骨折後の機能予後には受傷前の歩行能力・年齢・骨折型・筋力・認知症などが影響する.生命予後として,術後1年の死亡率は11〜35%と報告されている.
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注釈 |
コクランライブラリーのsystematic reviewでの用語に従って,ラグスクリューとプレートより構成される「CHS」「DHS」などの大腿骨頚部/転子部骨折治療用の内固定材料をsliding hip screw(CHS タイプ)と総称する. | |
同様に,ラグスクリューあるいはブレードと短い髄内釘より構成される「Gamma nail」「IMHS」「PFN」「Multi-fix」「PFNA」などの大腿骨転子部骨折治療用の内固定材料をshort femoral nail(Gamma タイプ)と総称する. |