(旧版)大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン (改訂第2版)
第6章 大腿骨頚部骨折の治療
6.3.治療の選択
6.3.3.人工骨頭置換術の術式選択と後療法
6.3.治療の選択
6.3.3.人工骨頭置換術の術式選択と後療法
■ Clinical Question 13
セメント使用とセメント非使用の選択基準
推奨
【Grade C】
症例に応じていずれを用いても良い.
解説
セメント使用骨頭置換は術後の大腿部痛が少ないが,血圧低下や術中突然死などの重篤な合併症の発生が,セメント非使用に比べて多い.セメント非使用骨頭置換では大腿骨骨折を生じる場合がある.その他の術後成績には,明らかな差はなく,いずれも良好な成績が得られている.
一般的には,ステムと良い適合性が得られない形状(髄腔の広い症例)の大腿骨ではセメントが用いられることが多い.
一般的には,ステムと良い適合性が得られない形状(髄腔の広い症例)の大腿骨ではセメントが用いられることが多い.
サイエンティフィックステートメント
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セメント使用骨頭置換のほうが大腿部痛は少なく,合併症,死亡率はセメント非使用と同等であるという,高いレベルのエビデンスがある(EV level I-2, EV level II-1, EV level III-2, EV level IV). |
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セメント使用とセメント非使用で臨床成績に差がないとする低いレベルのエビデンスがある(EV level IV). |
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セメント使用時に血圧低下や術中突然死があったとする低いレベルのエビデンスがある(EV level III-3, EV level IV). |
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セメント非使用骨頭置換において骨折が発生したというエビデンスがある(EV level III-3). |
エビデンス
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転位型451例を対象に,セメント使用/セメント非使用Bateman bipolarの術後成績をHarris scoreを用いて比較した.セメント使用群は機能上,エックス線所見上も良好で,早期の失敗例も少なかった.合併症,死亡率に有意差は認めなかった.高齢者にはセメント使用Bateman bipolarの適応がある(F1F03982, EV level IV). |
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bipolar型39例(Thompsonセメント使用19例,Austin Mooreセメント非使用20例)を比較した.観察期間は追跡2年以内で,セメント使用群は非使用群より成績は良好で,患部の疼痛の少ない点で優れていた(F1F05226, EV level II-1). |
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Thompson型でセメント使用,非使用とを比較した.101例(セメント使用23%,セメント非使用77%).統計学的に有意差は認めなかった(F1F01671, EV level IV). |
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平均年齢79歳(48〜100歳)の679例の検討.使用機種と症例数は,Austin Moore 202例,Christiansen 20例,bipolar Hastings 368例であった.75歳以上でセメント使用のbipolar Hastings使用例が有意に予後良好であった(F1F04389, EV level III-2). |
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20例でセメント使用の骨頭置換術中の心拍出量を検討した.心拍出量は,セメント使用前には有意な低下はなく,セメント使用中に33%,人工物整復時に44%の 低下を認めた.しかし,セメント使用は心拍数,動脈圧に影響を及ぼさなかった(F1F00676, EV level IV). |
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股関節形成術をした38,488例(骨折以外の症例含む)の検討.骨折症例に対して行われた股関節形成術における術中突然死は0.18%(10,245例中18例)であり,全例セメント使用例であった.頚部骨折に対して行われたセメント使用の股関節形成術における術中突然死は0.20%(3,453例中7例)であり,転子部骨折に対して行われたセメント使用の股関節形成術における術中突然死は1.6%(706例中11例)あった(F1F01615, EV level IV). |
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6件の臨床試験(総患者数549名)の結果から,セメント使用の人工関節はセメント非使用の人工関節と比較して,術後1年の疼痛がより軽く(16/52 対 28/52;RR 0.51,95%CI 0.31〜0.81),歩行能力もより良好であった(F2F01131, EV level I-2). |
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セメント非使用骨頭置換1,953例(頚部1,944例,転子部9例)中,54例(2.8%)に骨折が発生した(F1F00210, EV level II-2). |
文献