(旧版)大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン (改訂第2版)
第6章 大腿骨頚部骨折の治療
6.3.治療の選択
6.3.1.初期治療の選択
6.3.治療の選択
6.3.1.初期治療の選択
■ Clinical Question 9
外科的治療では骨接合術と人工物置換術とのいずれを選択するか
推奨
【Grade Ib】
非転位型(Garden stage I,stage II)は骨接合術を推奨する.
【Grade A】
高齢者の転位型(Garden stage III,stage IV)は人工物置換術を推奨する.
ただし,対象患者の全身状態,年齢を考慮して,手術法を選択すべきである.
解説
非転位型骨折例に対して,骨接合術と人工物置換術(人工骨頭置換術)との比較をした研究はない.非転位型では骨癒合率がきわめて高いので,骨頭壊死の合併の可能性はあるが,骨接合術を推奨する.
転位型は非転位型よりも骨癒合率が低く,骨頭壊死やlate segmental collapse(LSC)の頻度が高い.したがって,骨接合術は短期間に再手術に至る確率が高いので,一般的には人工物置換術を推奨する.ただし,人工物置換術は手術侵襲が大きく,長期的にみれば時間の経過とともに再置換率が高まると考えられる.これらの点より,対象患者の全身状態が悪い場合や,年齢が若い場合には,手術法は慎重に選択されるべきであって,安易に人工物に置換すべきではない.青壮年者の転位型骨折, 特にPauwels 3型に対しては外反骨切り術を併用した骨接合術を考慮しても良い.
転位型は非転位型よりも骨癒合率が低く,骨頭壊死やlate segmental collapse(LSC)の頻度が高い.したがって,骨接合術は短期間に再手術に至る確率が高いので,一般的には人工物置換術を推奨する.ただし,人工物置換術は手術侵襲が大きく,長期的にみれば時間の経過とともに再置換率が高まると考えられる.これらの点より,対象患者の全身状態が悪い場合や,年齢が若い場合には,手術法は慎重に選択されるべきであって,安易に人工物に置換すべきではない.青壮年者の転位型骨折, 特にPauwels 3型に対しては外反骨切り術を併用した骨接合術を考慮しても良い.
サイエンティフィックステートメント
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非転位型(Garden stage I,stage II) | |
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骨癒合率は85〜100%と報告されている(EV level III-2, EV level IV). | |
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骨頭壊死の合併は0〜21.1%と報告されている(EV level IV). | |
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転位型(Garden stage III,stage IV) | |
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骨癒合率は転位型全体で60〜96%と報告されている(EV level III-2, EV level IV). | |
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転位型をstage IIIとstage IVとに分類した報告では,骨癒合率はstage IIIで50〜97%,stage IVで89%と報告されている(EV level IV). | |
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骨頭壊死の合併は転位型全体で22〜57%と報告されている(EV level IV). | |
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転位型をstage IIIとIVとに分類した報告では,LSCはstage IIIで25%,stage IVで41%と報告されている(EV level IV). | |
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再手術率は骨接合術で高いとする高いレベルのエビデンスがある(EV level I-2, EV level I-1, EV level II-2, EV level III-2). | |
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手術侵襲は人工骨頭置換術のほうが大きいとする高いレベルのエビデンスがある(EV level I-2, EV level II-2). | |
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術後疼痛は骨接合術で強いとする高いレベルのエビデンスがある(EV level I-2). | |
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術後の歩行能力は骨接合術群と人工物置換術群間で有意差なしとする高いレベルのエビデンスがある(EV level I-2). | |
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転位型大腿骨頚部骨折の治療において,合併症や再手術を要した患者の割合は内固定術が人工股関節全置換術(THA)群に比し有意に高いという高いレベルのエビデンスがある(EV level I-1, EV level II-1). | |
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青壮年者の転位型骨折に対して骨切り術を試み,良好な骨癒合率を得たとの低いレベルのエビデンスがある(EV level IV). |
エビデンス
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骨癒合率について | |
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ハンソンピンで治療した68例(Garden stage I 18例, II 11例,III 9例,IV 20例)の検討.6ヵ月以上観察しえた43例で評価した.術後再転位を2例に認め,骨癒合率は非転位型100%,転位型92%であった(F1J00081, EV level IV). | |
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骨接合術を行い6ヵ月以上観察した87例(平均74歳)の検討.Garden stage別の骨癒合率はI 100%,II 93.8%,III 96.6%,IV 89.5%であり,stage IIIでも骨接合は有効であった(F1J00296, EV level IV). | |
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CHSで治療した160例(エックス線で6ヵ月以上観察した93例,壊死の発生をMRIで評価した45例,エックス線で1年以上観察した81例)を検討した.骨癒合率は,Garden stage I 100%,II 94.4%,III 96.8%,IV 88.9%であった(F1J00312, EV level IV). | |
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平均80歳(51〜100歳).DHS固定206例,3 parallel screw固定250例を非転位,転位例に施行した.偽関節,骨頭壊死の発生率は,DHSは非転位型14%,転位型40%,3 parallel screwは非転位型15%,転位型40%であった(F1F01945, EV level III-2). | |
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骨頭壊死について | |
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ハンソンピンで治療した68例(Garden stage I 18例,II 11例,III 9例,IV 20例)の検討.6ヵ月以上観察しえた43例で評価した.LSCを4例に,術後再転位を2例に認めた(F1J00081, EV level IV). | |
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骨接合術を行い6ヵ月以上観察した87例(平均74歳)の検討.Garden stage別の壊死発生率(MRIによる)は I 16.7%,II 23.5%,III 46.7%,IV 57.1%で,LSC発生率は各々0,7.7,25.9,41.2であった.発症時期は5ヵ月〜5年2ヵ月であった(F1J00296, EV level IV). | |
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つば付きCHSの46例(Garden stage I 15例,II 19例,III 10例,IV 6例)の検討.平均年齢68歳.平均9.3週で全例,骨癒合した.壊死発生率は10.9%(II 5.6%,III 10%,IV 33.3%)であった(F1J00304, EV level IV). | |
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CHSで治療した160例(エックス線で6ヵ月以上観察した93例,壊死の発生をMRIで評価した45例,エックス線で1年以上観察した81例).壊死率は,Garden stage I 16.7%,II 21.1%,III 43.8%,IV 57.1%.LSCは各々0,7.1,25,41.2で術後1〜2年に多発した(F1J00312, EV level IV). | |
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骨接合した100例の検討.術後3ヵ月の評価で,LSCの発生率は非転位型2.8%,転位型22%であった.MRI上の骨壊死は転位型の大多数例に認めた(F1J01084, EV level IV). | |
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非転位型について | |
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平均年齢66歳(19〜92歳),非転位型の305骨折に対するKnowles pinによる経皮的固定術の成績.荷重は8週から開始した.術後75ヵ月の評価では,骨癒合92.5%,偽関節4.6%,固定材のトラブル2.9%,壊死7.2%であった(F1F03169, EV level III-2). | |
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転位型 | |
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転位型に対する骨接合か人工物置換(骨頭もしくはTHA)かの,106論文の検討.術後2年以内の死亡率,再手術率と,2年以上追跡例の合併症発生率,再手術率を検討.術後1ヵ月の死亡率は人工物のほうが骨接合よりやや高い(有意差なし).再手術率は長期では人工物が明らかに低い.術後短期では,骨接合は人工物の脱臼率より有意に高い固定性の低下,整復位不良を呈した.疼痛は骨接合が有意に強い.歩行能力は人工物が高いが有意差なし(F1F04075, EV level I-2). | |
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転位型で骨接合,セメント人工骨頭(Thompson unipolar型,Monk bipolar型)の成績比較.年齢は65〜79歳.約5年追跡では3群間で機能的には有意差なし.再手術は骨接合群が28例と人工物群(Thompson unipolar型3例,Monk bipolar型5例)より高率であった(F1F00677, EV level I-1). | |
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75歳以上,32例の転位型に対して内固定を17例,骨頭置換術を15例に施行.内固定群では44%に再手術,骨頭置換術では再手術なし.内固定術群が手術時間は短く,出血量は少なかった(F1F00409, EV level II-1). | |
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70歳以上の転位型認知症例60例でscrew固定術31例と骨頭置換術29例とを比較した.生命予後差なし,出血量,創合併症は骨頭置換術群に多い.骨接合群では4例で再手術が必要であった(F1F00957, EV level II-1). | |
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65歳以上の365例.転位型で内固定術では再手術が多い.転位のある骨折とない骨折で再手術率を比較したところ,81歳以上の転位のある骨折群では,8年間の累積再手術率は内固定群(66.7%)が人工骨頭群(13.3%)より有意に高かった(p <0.001).65〜80歳の転位のある骨折では有意差はなかった(F1F02148, EV level II-2). | |
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高齢者43例で骨接合術と人工骨頭置換術を比較.2群間に術前機能不全,麻酔について有意差はなかった.骨接合群では手術時間,術中出血は有意に少なかったが,周術期の合併症は有意に多かった.骨折に関係ない術後合併症は骨接合群で有意に少なかった(F1F04301, EV level II-2). | |
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70歳以上の転位型200例.parallel Garden screw(GS)96例と人工骨頭104例の比較.創,術後認知症,肺炎の発生率には有意差はなかった.表層および深部感染は人工骨頭群に有意に多かった.人工骨頭の脱臼は5例に,内固定後の偽関節は21例に生じ,再手術を要したものは内固定群23%,人工骨頭群7%であった(F1F04829, EV level II-2). | |
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成人の転位型頚部骨折に対する内固定群と関節形成術群との比較を行ったすべてのRCT論文のreviewにおいて,内固定群が有意に優っていたのは手術時間,出血量,輸血の機会,深部感染であった.関節形成術群が有意に優っていたのは再手術率であった.内固定後の偽関節についての記載は14論文であり,950例中271例(28.5%)であった.骨壊死についての記載は11論文であり,885例中86例(9.7%)であった.脱臼についての記載は14論文であり,hemiarthroplastyでは774例中33例(4.3%),THAでは333例中44例(13.2%)であった.再発するのはTHAに多かった(F2F01128, EV level I-2). | |
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転位型大腿骨頚部骨折102例の治療においてTHA群(49例)と内固定群(53例)にランダムに割り付けた結果,48ヵ月後の股関節合併症は,THA群4%(2/49例),内固定術群42%(22/53例)に発生した(p <0.001).再手術を要した患者の割合は,内固定術群 (47%)がTHA群(4%)に比し有意に高かった(F2F02012, EV level I-1). | |
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転位型大腿骨頚部骨折455例の治療において人工骨頭群(229例)と内固定群(226例)にランダムに割り付けた結果,手術侵襲に関しては,人工骨頭群は内固定群に比べ,手術時間,出血量,輸血量ともに有意に多かった.一方,再手術率に関しては,人工骨頭群では全15例で再手術が実施され,内固定術群では77例に再転位あるいは骨癒合不全が認められ,11例に無腐性壊死が認められ,全90例111回の再手術が実施されており,内固定術群のほうが有意に高かった(F2F02064, EV level I-1). | |
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75歳以上の転位型の100例をランダムに2群に分け,骨接合術50例とセメント使用のTHA50例を施行し,術後2年の成績を比較した.転位型では骨接合術に比しTHAは安全で成績も良好であった.認知症がなく活動性が高い例ではTHAの適応がある(F1F00898, EV level II-1). | |
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壮年者での転位型の8例(38〜58歳,平均48.4歳)の検討.転子間外反骨切り術+ピンニング法で治療し,新鮮例6例,偽関節2例の全例で骨癒合を得た.転位型でも有用であった(F1J01673, EV level IV). | |
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骨粗鬆症を伴う転位型大腿骨頚部骨折53例(平均年齢55.6歳)に対し,一期的外反骨切り術を併用し骨接合術を行った.その結果全例で骨癒合が得られた.74%の患者に2〜14mmのcollapse,28%の患者に術後大腿骨頭の後捻が認められた.4例に大腿骨頭壊死を認め,このうち1例にLSCが生じた(F2F01510, EV level IV). |
文献