(旧版)大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン (改訂第2版)
第6章 大腿骨頚部骨折の治療
6.1.入院から手術までの管理と治療
6.1.入院から手術までの管理と治療
■ Clinical Question 1
適切な手術時期
推奨
【Grade B】
できる限り早期の手術を推奨する.
解説
最近の報告では緊急で24時間以内に手術する必要はないものの,内科的合併症で手術が遅れる場合を除いて,できるだけ早期に手術を行うべきであるという報告が多くなっている.また,わが国でも早期手術の有効性が報告されているが,現在の医療体制では欧米並みの早期手術を行うことは困難なことが多い.
サイエンティフィックステートメント
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信頼できるRCTがないため,エビデンスレベルは低い(EV level II-2, EV level III-2). |
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早期手術(24時間,2日,3日以内)が有効であるという報告が多い(EV level II-2, EV level III-2, EV level III-3). |
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早期手術が有効とする報告は,早期手術のほうが合併症が少なく,生存率が高く,入院期間が短いことをあげている. |
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一方で,早期手術(2日以内)と待期手術(3日以降)の間で,手術成績に差がなかったという報告もある(EV level III-2). |
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ただ,これらの報告においても早期手術のほうが入院期間が短いことは共通して いる. |
エビデンス
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60歳以上の大腿骨近位部骨折患者8,383例での検討では,手術時期(入院後手術まで24〜48時間以内と96時間以上を比較)は,短期および長期の死亡率(hazard ratio 1.07,95%CI)に影響を与えなかった.96時間以上の手術待機は褥瘡のリスクを増加させた(odd ratio 2.2)が,それ以外の治療結果(細菌感染,心筋梗塞,血栓塞栓)に悪影響を及ぼさなかった(F1F00015, EV level III-3). |
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手術ができる患者の術後30日,90日,1年の死亡率は,4日までの遅延では差がないが,5日以上の遅延では高くなっていた(F2F02008, EV level II-2). |
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手術に支障のない患者について,手術の遅延の及ぼす影響についての検討を行った結果,手術待機期間が長いと入院期間が長くなるが,1年死亡率は違いがない(F2F02106, EV level II-2). |
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入院後2日以内に手術した超早期手術群と入院後3日から5日に手術した早期手術群の間で,入院日数(p=0.540),退院先(p=0.575),退院時歩行能再獲得率(p=0.298),1年生存率(p=0.246),生命予後(p=0.636),機能的予後(p=0.875),社会的予後(p=0.754)に有意差を認めなかった(F2J00890, EV level III-2). |
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入院後2日以内に手術した患者は,5日以降に手術した患者に比較して,入院内,1ヵ月,1年の死亡率が低かった.合併症を考慮しても1年の死亡率は低かった.また,手術ができなかった患者が死亡率は最も高かった(F2F01612, EV level III-2). |
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大腿骨転子部骨折100例の予後調査では,手術までの日数に治療成績(歩行能力)との関連性を認めなかった(F1J00773, EV level IV). |
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大腿骨近位部骨折患者(52〜95歳)202例の術後1年以内の死亡率は18%であった.その内訳は,受傷後3日以内に手術を行った症例が32%で,受傷後3日以後に手術を行った症例(68%)よりも少ない(F1F02518, EV level IV). |
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高齢者の大腿骨近位部骨折患者1,880例では入院後2日以内に手術をしたほうが,3日以降に行った症例に比べて入院期間が5日間短く(p<0.01),術後6ヵ月の生存率もよかった(F1F02585, EV level III-3). |
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65歳以上の女性の大腿骨近位部骨折280例で,医学的に手術に耐えられる患者においては入院後24時間以内に手術を行うことにより,術後1年および2年の生存率の改善が認められた.2年後の生存率は,年齢とmental scoreを補正した場合,day1に対するday2およびday3+のrelative hazardはそれぞれ1.67(95%CI 0.95〜2.93,p=0.07),2.68(95%CI 1.5〜4.76,p=0.0007)であった(F1F03429, EV level II-2). |
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受傷前,歩行可能で自宅生活を行っていた高齢者(65歳以上)367例の大腿骨近位部骨折では,入院後2日以内に手術を行った群(267例)が3日以降に手術を行った群と比較して,術後1年以内の死亡率が1/2である(F1F03686, EV level II-2). |
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入院時生理的に安定している65歳以上の大腿骨近位部骨折患者では,手術を入院後72時間以後に行うと,死亡率,入院期間,合併症,費用が増加した(F1F03774, EV level III-2). |
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大腿骨近位部骨折患者の術前後の知的機能の低下について.70歳代では骨折受傷日より手術日までの日数は術後成績に影響しないが,80歳代では骨折受傷から手術までの日数が長いほど知的機能の低下が進行する可能性が高い(F1F03787, EV level III-2). |
文献