(旧版)大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン (改訂第2版)
第5章 大腿骨頚部/転子部骨折の診断
■ Clinical Question 3
骨シンチグラフィーは有用か
推奨
【Grade B】
受傷72時間経過後の骨シンチグラフィーは有用である.
解説
骨シンチグラフィーは偽陽性,偽陰性が存在するので注意を要する.
サイエンティフィックステートメント
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骨シンチグラフィーはエックス線単純写真では明確でない骨折の診断に有用であるが,受傷後72時間経過しなければ正確な診断が困難であり,72時間経過後であっても,股関節部の退行性変性疾患,軟部組織の石灰沈着,転子部滑液包炎などと慎重な鑑別が必要である(EV level C-Ib). |
エビデンス
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大腿骨近位(股関節)部のoccult fractureの可能性があるとして評価に供された97例からretrospectively に集められた105関節,および股関節部骨折が明らかあるいは疑わしいと診断された63例にprospectively に実施された74関節の,合計179関節骨シンチグラフィーの結果が,患者の年齢,受傷と検査との間隔,および骨折型について分析された.92例の検査は受傷後72時間未満で行われ,これらのうちの31例は0〜24時間で行われた.股関節部骨折の診断について,全体の感受性は0.933,特異性は0.950であった.単純エックス線写真で正常あるいは骨折が疑わしい,臨床的に重要な群では,感受性は0.978であった.72時間未満での感受性は0.875,特異性は0.962で,72時間以上での感受性は1,特異性は0.919であった.大転子骨折では特徴的な像が見られた.評価した患者の41%で,他の診断が骨シンチグラフィーで確立された.この結果から,すべての年齢の患者で,受傷後の時間にかかわらず,来院次第に骨シンチグラフィーを行って良いものと思われる.しかし,受傷後72時間経っての骨シンチグラフィーの所見がより正確である(F1F05665, EV level C-Ib). |
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5年間に大腿骨頚部骨折を疑われて入院した2,617例の患者の調査で,213例が正常あるいはあいまいなエックス線単純写真であったので,引き続き骨シンチグラフィーを行った.127例(60%)では正常な画像が得られた.残り86例のうち82例(38%)では大腿骨近位部の骨折が,3例は恥骨枝の骨折が,そして1例では寛骨臼の骨折が明らかとなった.調査と追跡によって,8例の偽陽性と2例の偽陰性像が明らかとなった.骨シンチグラフィーは,臨床所見とエックス線単純写真の状況から,注意深い解釈を行えば,occult fracturesを発見するのに非常に有用な検査である.骨シンチグラフィーは受傷後48時間以降,大部分は2〜5日以内に行われ,少数はその後に行われたものもあるが,avascularな所見のみの偽陰性なものがある一方,偽陽性な所見を示すものには,股関節部の退行変性疾患,軟部組織の石灰沈着,転子部滑液包炎があった.また,大転子の骨折や,恥骨枝や寛骨臼の骨折との鑑別も必要である(F1F05110, EV level C-Ib). |

図3 | 症例写真 | |
a. | 68歳,男性,3年前に右人工骨頭置換術を受けていて,交通事故に遭遇し左股関節痛出現する.痛みはあるが歩行は可能であった. | |
b. | 骨シンチグラフィーにて左大腿骨頚部にuptakeを認める. |
文献