(旧版)大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン (改訂第2版)
第5章 大腿骨頚部/転子部骨折の診断
■ Clinical Question 2
MRIは診断に有用か
推奨
【Grade A】
MRIは有用で,診断精度はきわめて高い.
解説
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MRIは非侵襲的に検査ができ,骨折部位はT1強調像で低信号,T2強調像またはSTIR像で高信号として描出される. |
サイエンティフィックステートメント
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MRIはエックス線単純写真検査では明確でない骨折の診断を早期に,短時間に,正確に可能とし,患者の身体的,時間的,および経済的負担を軽減する(EV level C-Ib,EV level C-II). |
エビデンス
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臨床的には股関節部骨折が疑われるものの,エックス線所見が陰性である62例の患者に,MRIと骨シンチグラフィーを両方とも行った.MRIは入院24時間以内に,骨シンチグラフィーは入院後72時間以内に行った.MRIで陰性所見の23例は骨シンチグラフィーでも同様に陰性であった.さらに,入院時のエックス線写真で阻血性壊死が明らかな2例の患者は,MRIでも骨シンチグラフィーでも大腿骨頭の阻血性壊死の証拠を示したが,骨折はなかった.37例の患者ではMRI 上骨折が明らかで,そのうち36例は初回の骨シンチグラフィーでも明らかであったが,1人の患者は入院後24時間での骨シンチグラフィーでは陰性であり,6日後の再骨シンチグラフィーでは陽性であった.MRIはoccult fracturesの診断上,骨シンチグラフィーと同じくらい正確であった.MRIは15分未満でも撮影できて,患者も耐えられる.MRIは股関節部のoccult fracturesの早期診断を可能にし,確定的治療を促進して,入院期間を短縮するであろう(F1F04500, EV level C-Ib). |
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股関節部痛を訴えて受診した895例中,219例(29%)はエックス線単純写真で骨折が確認できたが,骨折が判明できなかった545例中,臨床的に骨折が強く疑われる62例に受診後ただちにMRIを行い,放射線科専門医と救急部専門医で画像診断を行い,24例に骨折が診断できた.主な骨折とその頻度は頚部骨折が13.8%,転子部骨折が6.9%,恥骨骨折が34.5%,仙骨骨折が27.6%,臼蓋骨折が10.3%であった(F2F00004, EV level C-II). |
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エックス線単純写真で証明されなかった股関節部骨折を疑う症例100例にMRIを行い,46例に骨折が認められた.MRIによる診断は経験による差は少なく検者間の一致率は高かった.MRIのSTIR像では軟部組織の影響で紛らわしいが,T1強調像のlow intensityが診断により有効であった(F2F00029, EV level C-II). |
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外傷後に股関節部痛を訴えた770例の患者のうち,エックス線単純写真撮影で証明されないものの,臨床的には骨折が疑われる33例の患者に,入院後48時間以内にMRIを行った.10例(30%)はMRIで骨折は見えず,その後も骨折は証明されなかった(100% true negative).22例(67%)は骨折があり,1例では腫瘍が発見された.骨折のうち19例(60%)は大腿骨頚部あるいは転子部骨折で,1例は恥骨枝骨折,1例は大転子骨折,1例は寛骨臼骨折であった.MRIは高齢者が良く耐えうるし,エックス線障害もなく,外傷後に股関節痛があり,エックス線単純写真で骨折が示されない患者について早期に確実な診断を行うことが可能である(F1F02218, EV level C-II). |
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臨床的には股関節部骨折の疑いが強いが,初回のエックス線単純写真が正常あるいはあいまいであった23例に,受診後48時間以内にMRIを行った.9例中9例で骨折が正しく証明され,そのうち8例で骨折線の正確な形態が描出された.14例中14例でMRIは骨折を除外するのに役に立った.その後,彼らは少なくとも3ヵ月間は臨床的に追跡された.骨シンチグラフィーは5例に行った.陽性であった4例には骨折があり,あいまいであった1例はあとで骨折がないことが明らかになった.MRIは股関節部骨折の速やかな,費用対効果の良い,解剖学的に正確な診断を提供することができる検査である.診断の特異性が高いため,さらなる経費や放射線被曝を伴う追加的な画像検査が不要になる(F1F05972, EV level C-II). |
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臨床的に股関節部骨折が疑われるが,エックス線単純写真で証明されなかった33例のうち24例に受診後48時間以内にMRIを行い5例に骨折が認められた.2人の上級放射線科医と2人の初級放射線科医が診断し,正診率は上級放射線科医では2人とも100%であったが,初級放射線科医は89.3%と82.1%で低下していた.しかし検者間の一致率はκ統計では0.75で信頼性は高かった.初級放射線科医はSTIR像において軟部組織の影響で診断率が低下していた(F2F01283, EV level C-II). |

図2 | 症例写真 | |
a. | 72歳,女性,玄関先でつまずき転倒する.右股関節部痛出現のため,翌日杖歩行にて受診する.エックス線単純写真では骨折が診断できない. | |
b. | 3日後,右股関節部痛が軽快しないため,再度右股関節エックス線単純写真を撮影する.骨頭下縁に不整が見られた. | |
c. | 3日後に撮影したMRI,T1強調像で頚部にlow intensity areaが認められる. | |
d. | 3日後のMRI,脂肪抑制T2強調像では頚部にhigh intensity areaとして影出される. |
文献