(旧版)大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン (改訂第2版)
第5章 大腿骨頚部/転子部骨折の診断
本章のまとめ
高齢者が転倒した後に股関節痛を訴え,歩行不可能になったというエピソードは,大腿骨頚部/転子部骨折の最も典型的な病歴である.しかし,高度の骨粗鬆症患者では,転倒がなくても軽微な外力(たとえば,通常の歩行あるいは介護による外力など)でも骨折を生じる場合があり,転倒の存在は大腿骨頚部/転子部骨折を疑う必須条件ではない.転位のない骨折では痛みを訴えるものの,歩行可能な場合もあり,診断には注意を要する.転位のある大腿骨頚部/転子部骨折では,患肢が短縮・外旋しており,著しい運動痛と運動制限を認める.
以上の病歴と身体所見により,大腿骨頚部/転子部骨折を疑った場合,最も簡便で有効なスクリーニング検査はエックス線単純写真である.通常,両股関節の正面像と患側股関節の側面像の2方向を撮影する.頚部骨折が疑われるのに骨折線が明らかでない場合には,両下肢を10〜15°内旋して正面像を撮影すると,大転子の重なりがなくなり,骨皮質や骨梁のわずかな断裂も認識されやすい.側面像は,cross-table lateral viewを撮影する.このcross-table lateral viewは,骨頭と頚部の前後面での傾きや転位の程度および頚部後方の粉砕の程度を正確に評価するのに有用である.
大腿骨頚部/転子部骨折が強く疑われるにもかかわらず,エックス線単純写真検査で診断ができない場合,MRI・骨シンチグラフィー・CTのいずれかを追加することが望ましく,なかでもMRIが最も有用である.

図1 | cross-table lateral view |
健側の股関節と膝関節とを90°屈曲して,エックス線照射の中心を会陰部とし,照射方向は床面に水平かつ大腿骨頚部に垂直な方向で撮影した像 |