(旧版)大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン (改訂第2版)

 
 
第4章 大腿骨頚部/転子部骨折の予防

■ Clinical Question 2
運動療法は予防に有効か

推奨

【Grade A】
運動療法は転倒予防には有効である.一方,骨折予防については不明である.


解説

運動療法は転倒率を低下させ,転倒予防に有効である.骨折を含む重度外傷に限ると運動療法による骨折の減少率には有意な差がなく,これまでの運動療法では大腿骨頚部/転子部骨折リスクの減少効果は証明されていない.骨折を予防するためには,さらに効果の高い運動療法を考案することが急務である.

サイエンティフィックステートメント

dot 運動療法は転倒予防に有効であるとする,高いレベルのエビデンスがあるが(EV level I-2),大腿骨頚部/転子部骨折に有効であるとする高いレベルのエビデンスはまだない.

エビデンス

dot 米国での老人ホームや公共住宅に居住する平均73歳から88歳の対象者に,種々の運動訓練が行われた7つの研究のmeta-analysisでは,運動によって転倒率は0.90(95%CI 0.81〜0.99)に減少した.バランス訓練は0.83(95%CI 0.70〜0.98)と特に効果的であるよう思えた.ただし,傷害性転倒に対しては有意ではなかったが,この評価項目を見出すにはパワーが小さい.結論として,高齢者に対する運動訓練は転倒リスクを減らす(F1F10068, EV level I-2).
dot 11のRCTで合計4,933例の60歳以上の男女への運動訓練は,5つの試験において介入群で有意な転倒率や転倒リスクの減少を示した.結論として,運動は選択された群において効果的に転倒リスクを低下させる.運動プログラムの費用に関する情報はわずかである(F1F10069, EV level I-2).
dot ニュージーランドで行われた4つの試験(そのうち3つがRCT)のmeta-analysisによると,82.3歳の地域住民1,016例に,転倒予防のためにデザインされた筋力強化とバランス改善の訓練プログラムを家庭で個別運動指導した結果,プログラムは全体で,転倒数を35%[罹患率(IRR)0.65,95%CI 0.57〜0.75],転倒による外傷数も35%(IRR 0.65,95%CI 0.53〜0.81)減少させた.効果は80歳以上が最も高いとしているが,骨折を含む重度外傷に限ると有意差はなく,大腿骨頚部/転子部骨折に関する効果は記されていない(F1F10012, EV level I-2).
dot 閉経後女性の骨量減少と骨折の予防に対する運動療法の有効性を検証した18のRCTのmeta-analysisによれば,有酸素運動,体重負荷運動や抵抗運動は,すべて脊椎骨密度増加に有効であった.有酸素運動と体重負荷運動を組み合わせたプログラムの脊椎における骨密度のWMD(weighted mean differences)は1.79(95%CI 0.58〜3.01).ウォーキングは脊椎骨密度で1.31(95%CI -0.03〜2.65),大腿骨近位部で0.92(95%CI 0.21〜1.64)と両部位で有効であった.有酸素運動は1.22(95%CI 0.71〜1.74)と手関節骨密度増量にも有効であった.有酸素運動,体重負荷運動,抵抗運動はすべて閉経後女性の脊椎骨密度増加に有効である.ウォーキングは大腿骨近位部にも有効である.解析された試験の質は低かった.大腿骨頚部/転子部骨折への効果は記載なし(F1F10010, EV level I-2).
dot 高齢者(在宅,施設入所あるいは入院中)における転倒頻度減少のためにデザインされた介入の効果を評価するためのmeta-analysisでは,介入は有益のようである.効果のある介入は,筋力強化とバランス改善のプログラム(プロによる家庭での個別指導による):RR 0.80(95%CI 0.66〜0.98),太極拳:RR 0.51(95%CI 0.36〜0.73),家庭環境因子の評価と改善:転倒歴のある高齢者においてRR 0.66(95%CI 0.54〜0.81),RR 0.64(95%CI 0.49〜0.84),向精神薬中止:RR 0.34(95%CI 0.16〜0.74),心臓ペースメーカー:心抑制性頚動脈洞反射過敏を有する転倒者においてRR 0.48 (95%CI 0.32〜0.73),多要因プログラム:選択条件をつけない在宅高齢者においてRR 0.73(95%CI 0.63〜0.85),転倒リスクを持つ高齢者においてRR 0.86(95%CI 0.76〜0.98),介護施設においてIRR 0.60(95%CI 0.50〜0.73)で,転倒予防介入は有効のようであり,現在活用できる.これらが転倒による外傷の予防に有効であるかについては,ほとんど不明である.大腿骨頚部/転子部骨折予防のデータはない.予防された転倒当たりのコストは4 つの介入策で確立されている(F2F03882, EV level I-2).
dot 高齢者の転倒率における予防プログラムの効果のmeta-analysisでは,12研究すべての平均effect sizeは0.0779,転倒予防策のタイプ別にまとめると,運動療法のみのものでは0.022,運動療法および危険因子回避群では0.0687,包括的危険因子評価にては0.1231,対象別には一般人対象の研究では0.0972,施設対象では0.237,期間別には12ヵ月の転倒予防の平均では0.0905,4ヵ月以下のそれでは-0.0972であった.effect sizeの0.0779から,さまざまな転倒予防治療群において対象者はコントロール群より4% の転倒率減少(52%から48%)があったと解釈される(F1F10070, EV level I-2).

文献

1) F1F10068 Province MA, Hadley EC, Hornbrook MC et al:The effects of exercise on falls in elderly patients. A preplanned meta-analysis of the FICSIT Trials. Frailty and Injuries:Cooperative Studies of Intervention Techniques. JAMA 1995;273:1341-1347
2) F1F10069 Gardner MM, Robertson MC, Campbell AJ:Exercise in preventing falls and fall related injuries in older people:a review of randomised controlled trials. Br J Sports Med 2000;34:7-17
3) F1F10012 Robertson MC, Campbell AJ, Gardner MM et al:Preventing injuries in older people by preventing falls:a meta-analysis of individual-level data. J Am Geriatr Soc 2002;50:905-911
4) F1F10010 Bonaiuti D, Shea B, Iovine R et al:Exercise for preventing and treating osteoporosis in postmenopausal women. Cochrane Database Syst Rev 2002;3:CD000333
5) F2F03882 Gillespie LD, Gillespie WJ, Robertson MC et al:Interventions for preventing falls in elderly people. Cochrane Database Syst Rev 2003;4:CD000340
6) F1F10070 Hill-Westmoreland EE, Soeken K, Spellbring AM:A meta-analysis of fall prevention programs for the elderly:how effective are they? Nurs Res 2002;51:1-8



 

 
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