(旧版)大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン (改訂第2版)
第3章 大腿骨頚部/転子部骨折の危険因子
3.1.骨に関連した危険因子
3.1.骨に関連した危険因子
■ Clinical Question 1
骨密度の低下は危険因子か
解説
【Grade A】
骨密度の低下は危険因子である.
解説
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骨密度の低下は大腿骨頚部/転子部骨折の危険因子である.しかし,骨密度(bone mineral density:BMD)が正常であることは骨折しないことの保証にはならない.骨密度は感度が低く,骨折を生じる個人を同定することはできない. |
サイエンティフィックステートメント
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dual energy X-ray absorptiometry(DXA)で測定された骨密度の低下は大腿骨頚部/転子部骨折の危険因子である(EV level R-I). |
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大腿骨近位部骨密度が1SD低下することにより大腿骨頚部/転子部骨折の危険率は2.6倍になる(EV level R-I). |
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DXAで測定された骨密度以外に手指エックス線撮影から自動測定された骨密度(EV level R-II)や超音波で測定された骨量低下(EV level R-I)も骨折予測能力がある. |
エビデンス
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11の文献における約9万例の対象と,うち2,000例を超える骨折患者のmeta-analysisによれば,大腿骨近位部でのBMD計測から大腿骨近位部骨折(骨密度1SD低下による相対危険度2.6(95%CI 2.0〜3.5)を予測することが可能である.この予測能は,血圧1SDの上昇からの脳血管障害の予見能力と同等で,冠動脈疾患における1SDのコレステロール濃度の上昇より勝っていた.ただし,血圧からの脳血管障害の発生予測と同じく,骨密度から骨折発生の予測は可能だが,骨折を生じる個人を同定することはできない.骨折を生じた患者と生じていない患者間で,骨密度には広範なオーバーラップがあり,感度が低く,骨粗鬆症に対するスクリーニングプログラムは推奨できない.骨密度は,骨折が生ずるリスクが増加した人を確認できるが,実際どの人に将来骨折が起こるかの確定はできない(F1F03045, EV level R-I). |
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65歳以上の8,134例の女性における65例の大腿骨頚部骨折発生を前向きに1.8年調査した研究では,大腿骨頚部BMDは脊椎,橈骨,踵骨のBMDに比較して大腿骨近位部骨折と高い相関を有しており,BMDの1SD当たりの減少で,大腿骨近位部骨折のリスクが2.6倍になると報告されている(F1F10045, EV level R-II). |
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一般高齢女性大規模前向き調査(EPIDOS)の登録患者の検討で,平均年齢80.5歳の女性6,933例のうち平均体重以下の3,546例に大腿骨近位部骨折発生率は,1,000例当たりT-score -2.5以上では5.5例,-2.5から-3.5の間では13.3例,-3.5以下では30.5例であった(F1F00311, EV level R-II). |
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EPIDOSの登録患者の検討で,75歳以上の7,598例の女性の平均2年の追跡の結果,154例が大腿骨近位部骨折を起こした.大腿骨近位部骨折リスクはBMDが1SD減少するごとに,大腿骨頚部で1.9倍(95%CI 1.5〜2.3),大転子で2.6倍(95%CI 2.0〜3.3),Ward三角で1.8倍(95%CI 1.4〜2.2),全身骨では1.6倍(95%CI 1.2〜2.0)増加した.各大腿骨近位部と全身骨のBMDは有意に大腿骨近位部骨折相対危険度と関連した(F1F10046, EV level R-II). |
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超音波による骨量値も同じような予後予測能がある.多くの研究結果は,broad band ultrasound attenuation やspeed of soundの計測は各指標1SD減少に対するリスク増加の1.5から2.0倍に関連することを示している(F1F10047, EV level R-I). |
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65歳以上の9,704例の前向きコホート研究(the Study of Osteoporotic Fracture)からの大腿骨近位部骨折に関するcase-cohort studyで,手指のエックス線撮影の自動解析で骨密度を評価する方法であるdigital X-ray radiogrammetry(DXR)で測定されたBMDの1SD当たりの減少で,大腿骨近位部骨折のリスクが1.8倍(95%CI 1.4〜2.2)になると報告されている.これはDXAによる大腿骨頚部には劣るが,他の部位(腰椎,踵骨,前腕)と同様な予測能であった(F1F10048, EV level R-II). |
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歩行可能な65歳以上の米国人白人女性6,787例を対象とした前向きコホート研究(the Study of Osteoporotic Fracture)で,602例(8.9%)の女性が,10±3.2年の追跡期間に,大腿骨近位部骨折を受傷した.股関節部のBMDが0.13g/cm2減少するごとに,股関節部骨折のリスクは1.84倍増加した(F2F01775, EV level R-II). |
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1980年にRochester在住の年齢層化抽出標本で選ばれた225例の女性(Mayoクリニック)を対象とした3,146人・年の追跡調査から,28例の大腿骨近位部骨折は,大腿骨頚部のBMDにより最も良く予測できた.大腿骨頚部のBMDは,骨粗鬆症による骨折リスクを,最初の10年のハザード比1.38と同様に10年以上においてもハザード比1.39と予測できた(F2F02170, EV level R-II). |
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オーストラリアでの60歳以上の男女(男性740例,女性1,208例)を対象としたコホート研究(Dubbo Osteoporosis Epidemiology Study)で,高齢,低身長,低体重,大腿四頭筋筋力低下,姿勢の不安定性,BMD低値(0.12g/cm2減少でのハザード比2.62),以前の骨折,転倒の既往で大腿骨近位部骨折のリスクが上がっていた(F2F03330, EV level R-II). |
文献