(旧版)大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン (改訂第2版)
日本整形外科学会診療ガイドライン改訂にあたって
医療を取り巻く環境は大きく変わってきています.1つは人口の高齢化です.日本の平均寿命(2009年)は男性79.6歳,女性86.4歳で,65歳以上の高齢者人口は2,944万人となり全人口の21%を超えています.1947年のそれが男性50.1歳,女性54.0歳であったことを考えますと急速に高齢化が進んでいるといえます.
多くの人が運動器を80年以上使うようになりました.運動器の疾病構造は変化し,運動器の変性疾患が急増しました.そして1人で複数の障害を持つ人も多くなりました.高齢者は身体的に個人差が大きいことも特徴の1つです.運動器障害を新しい視点で捉えなければならない新しい時代が来たと言えると思います.
新しい技術の開発も急速に進んでいます.このため,かつては考えられなかった術式が可能になったりしています.画像診断の進歩により病変の確認が容易になった点も多くあります.このようになりますと手術の適応そのものも変化してきます.診断や治療がこれまで以上に多様化しているのです.
医療では状況によっては最新の治療法が必要なこともありますが,一般に求められるものは安全性の高い,確実な方法です.いわゆる標準的な医療です.診断や治療が多様化している現在では,このような標準的な医療を確認することがこれまで以上に重要になってきています.
このため日本整形外科学会では,各種の疾患についてエビデンスに基づいた「ガイドライン」を策定し,また時間が経過したものについてはその改訂作業を進めてきております.整形外科医がこれらのガイドラインを参考に,その上で現実の個々の患者さんにもっとも適切な診断や治療法を考えていかねばなりません.
この診療ガイドラインが医療の現場はもちろんのこと医師教育の場などで十分に活かされ,運動器医療の向上につながっていくことを願っています.
平成23年
日本整形外科学会理事長
中村 耕三
中村 耕三