(旧版)大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン
第6章 大腿骨頚部骨折(いわゆる内側骨折)の治療
6.10 一期的(骨折直後)人工股関節全置換術
6.10.1 一期的(骨折直後)に人工物置換術を選択した場合、人工骨頭置換術とTHAのどちらを選択するか
|
解 説
一期的THAと一期的人工骨頭置換術とを比較して、THAのほうが成績がよいとする海外からの報告があるが、systematic reviewでは両者の適応については「研究数が少なく不明である」と報告されている。 また、THAのほうが手術侵襲は大きいので、対象患者の全身状態が悪い場合や、期待される余命が短い場合には、人工骨頭置換術を推奨する。
サイエンティフィックステートメント
・ | THAは人工骨頭置換術に比し、疼痛が少なく、可動性がよく、再置換率は低いが、両者の適応については研究数が少なく不明であるという高いレベルのエビデンスがある(EV level Ia)。 |
・ | 活動性が高く、転位型で痴呆のない例にTHAの適応があるという中等度レベルのエビデンスがある(EV level Ib、EV level II)。 |
・ | 骨接合、人工骨頭、THAの術後2年の費用はTHAが最も良いとの高いレベルのエビデンスがある(EV level Ia)。 |
エビデンス
・ | 高齢者166例を対象として、unipolar型(セメント使用、セメント非使用)とTHAを比較検討した。再置換率はTHA 2.2%、セメント使用7.9%、セメント非使用13%であった。死亡率はTHA 0%、骨頭群3.3%で(有意差は認めなかった)、高齢者で活動性が高い例ではTHAが有用で、高齢者で活動性が低い例では骨頭を勧める(FF04799 , EV level II)。 |
・ | 人工骨頭とTHAの比較。systematic review. セメント使用例は死亡率が高いが下肢痛の発生少ない。THAは骨頭に比し疼痛が少なく、可動性がよい。長期的には再置換率はTHA 6.3%、骨頭24%とTHAが低いが、両者の適応については研究数が少なく不明である(FF00530 , EV level Ia)。 |
・ | 65歳以上転位型185例に骨接合、unipolar型骨頭、bipolar型骨頭、THAを施行した。費用の比較では、術後2年での費用はTHAが最も少なかった(FF00515, EV level Ia)。 |
・ | 75歳以上の転位型の100例に骨接合術50例とセメント使用のTHA 50例を施行し、術後2年の成績を比較した。転位型では骨接合術に比しTHAは安全で成績も良好であった。痴呆がなく活動性が高い例ではTHAの適応がある(FF00898 , EV level Ib)。 |
文 献
1) | FF04799 | Gebhard JS, Amstutz HC, Zinar DM et al:A comparison of total hip arthroplasty and hemiarthroplasty for treatment of acute fracture of the femoral neck. Clin Orthop 1992;282:123-131 |
2) | FF00530 | Parker MJ, Rajan D:Arthroplasties(with and without bone cement)for proximal femoral fractures in adults. Cochrane Database Syst Rev 2001;(3):CD001706 |
3) | FF00515 | Iorio R, Healy WL, Lemos DW et al:Displaced femoral neck fractures in the elderly:outcomes and cost effectiveness. Clin Orthop 2001;383:229-242 |
4) | FF00898 | Johansson T, Jacobsson SA, Ivarsson I et al:Internal fixation versus total hip arthroplasty in the treatment of displaced femoral neck fractures:a prospective randomized study of 100 hips. Acta Orthop Scand 2000;71:597-602 |