(旧版)大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン
第4章 大腿骨頚部/転子部骨折の予防
4.1 薬物療法は予防に有効か
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解 説
ここでは大腿骨頚部/転子部骨折の予防効果についてのみ検討した(大腿骨頚部/転子部骨折以外の骨折予防や骨粗鬆症の治療については、骨粗鬆症の治療に関する他のガイドラインを参照)。
サイエンティフィックステートメント
・ | アレンドロネートとリセドロネートは70歳代までの骨粗鬆症の女性の大腿骨頚部/転子部骨折を減少させるとする高いレベルのエビデンスがある(EV level Ia)。 |
・ | ビタミンDはカルシウム併用で80歳代の施設入所女性の大腿骨頚部/転子部骨折を減少させるとする高いレベルのエビデンスがある(EV level Ia)。 |
・ | エストロゲンは大腿骨頚部/転子部骨折を減少させるが、他の全身的有害事象が多いとする高いレベルのエビデンスがある(EV level Ia)。 |
エビデンス
・ | 閉経後骨粗鬆症に対する治療のmeta-analysisシリーズの総まとめによれば、非脊椎骨折の抑制効果については、相対危険度はカルシウムが0.86(0.43〜1.72)、ビタミンDが0.77(0.57〜1.04)、エチドロネートが0.99(0.69〜1.42)、アレンドロネート(5 mg)が0.87(0.73〜1.02)、アレンドロネート(10〜40 mg)が0.51(0.38〜0.69)、ラロキシフェンが0.91(0.79〜1.06)、カルシトニンが0.80(0.59〜1.09)、リセドロネートが0.73(0.61〜0.87)、エストロゲンが0.87(0.71〜1.08)、フロライドが1.46(0.92〜2.32)であった。アレンドロネートとリセドロネートだけが非脊椎骨折に有意な治療効果を有していた。95%CIから相対危険度減少はアレンドロネートで少なくとも31%、リセドロネートで少なくとも13%であることが示された(FF10067 , EV level Ia)。 |
・ | カルシウム摂取に関する今日の文献と閉経後の女性の骨折のリスクについてのsystematic reviewによれば、RCTからはCaサプリメントによる大腿骨頚部骨折減少のエビデンスはなかった。大腿骨頚部骨折が調べられたCa食餌摂取の疫学研究では、Ca食餌摂取と大腿骨頚部骨折の関連に大きな不一致がみられた。合体して算出された、1日当たり300 mgのCa食餌摂取増量の大腿骨頚部骨折に対するORは、0.96(95%CI 0.93, 0.99)であった(FF02796 , EV level Ia)。 |
・ | 退行性または閉経後の骨粗数症の高齢男女に脊椎と四肢の骨折予防にVit DおよびVit D類似品のサプリメントの効果を単独またはカルシウムとの併用で調べたmeta-analysisでは、20のRCTを含んだ21試験が採用された。2500人以上の大規模試験3つと250〜600人の中規模試験4つ、75人未満の小規模試験14である。カルシウムサプリメントなしでの単独Vit D3投与は、平均80歳の在宅住民2564名では、大腿骨頚部骨折発生に関係しなかった(RR 1.20、95%CI 0.83, 1.75)。カルシウムサプリメント併用でのVit D3投与は、平均84歳の施設入所の脆弱高齢者2790名で、大腿骨頚部骨折発生の減少に有効であった(RR 0.74、95%CI 0.60, 0.91)。平均71歳の健康でより若い歩行可能な高齢者445名においては、大腿骨頚部骨折の効果は、1例しか起こらなかったため、わからなかったが(RR 0.36、95%CI 0.01, 8.78)、非脊椎骨折全体では予防に有効であった(RR 0.46、95%CI 0.23, 0.90)。Calcitriolの大腿骨頚部骨折予防はデータがない。1-alpha-hydroxy vitamin Dについては、神経疾患による障害のある高齢者において、非脊椎骨折減少に有効であるという小規模試験がある(RR 0.12、95%CI 0.02, 0.95)(FF00539 , EV level Ia)。 |
・ | 閉経後女性の骨粗鬆症に対するアレンドロネートの効果と安全性の評価で、アレンドロネートは、BMD値、年齢、骨代謝回転、骨折既往などに関わりなく、脊椎、大腿骨近位部および全身のBMDを増加させ、大腿骨頚部では4.5%、転子部では7.4%増加した。アレンドロネート投与群では脊椎骨折は50%減少し、大腿骨近位部骨折と手関節骨折は50%、すべての骨折は28%減少した。組織学的にも骨軟化症はみられず、正常骨であった(FF02121, EV level Ia)。 |
・ | カルシトニンとエチドロネートの閉経後骨粗鬆症に対する予防効果をカルシトニン投与論文18編、エチドロネート投与論文6編に基づき、検討したところ、カルシトニン投与群のBMD変化率は脊椎で1.97、大腿骨近位部は0.32、脊椎圧迫骨折予防率は59.2、エチドロネート投与群では、それぞれ3.20、2.42、28.3であり、2者間で優劣は決定できなかった。しかし、大腿骨頚部骨折に関するデータはない(FF02909, EV level Ia)。 |
・ | カルシトニンの閉経後骨粗鬆症に対する予防効果の検討により、カルシトニン投与群は、脊椎のBMD変化率が1.97、脊椎骨折予防率が59.2であった。大腿骨近位部骨折の関するデータはない(FF02909, EV level Ia)。 |
・ | EstrogenとProgestinを併用した治療は、米国の16608名の試験において大腿骨近位部骨折のハザード比を0.66(0.45〜0.98)と有意に減少させた。ほかに結腸直腸がんも減少したが、虚血性心疾患、脳卒中、肺塞栓症は増加し、この試験は、EstrogenとProgestinの併用療法がむしろ有害であることを示した(FF00268, EV level Ib)。 |
・ | 1995年までの37論文が採用されたmeta-analysisによれば、estrogenは閉経後の骨折率を抑制し、1. primary preventionではeffect sizeは0.5〜2.5 standard deviation(SD)unitsであった。2. secondary preventionでも同様の数値であった。椎体骨折と大腿骨近位部骨折への効果を比較した論文としては、secondary preventionを検討した4編があった。effect sizeは大腿骨近位部骨折で小さく(0.92 SD units)、椎体骨折で大きかった(2.12 SD units)。primary preventionの1編では椎体骨折と大腿骨近位部骨折でeffect sizeに差がなかった(FF02132 , EV level Ia)。 |
・ | リセドロネートは、70歳代骨粗鬆症女性5445名と80歳以上の非骨関連因子か、骨粗鬆症を有する女性3886名での試験において、全体で大腿骨近位部骨折の相対危険度を0.7(95%CI 0.6, 0.9)に減少させた。特に70歳代骨粗鬆症女性では相対危険度は0.6(95%CI 0.4, 0.9)と有効性が高かったが、80歳以上の群では発生率に有意差はみられなかった(FF00792 , EV level Ib)。 |
文 献
1) | FF10067 | Cranney A, Guyatt G, Griffith L et al:Meta-analyses of therapies for postmenopausal osteoporosis. IX:Summary of meta-analyses of therapies for postmenopausal osteoporosis. Endocr Rev 2002;23:570-578 |
2) | FF02796 | Cumming RG, Nevitt MC:Calcium for prevention of osteoporotic fractures in postmenopausal women. J Bone Miner Res 1997;12:1321-1329 |
3) | FF00539 | Gillespie WJ, Avenell A, Henry DA et al:Vitamin D and vitamin D analogues for preventing fractures associated with involutional and post-menopausal osteoporosis. Cochrane Database Syst Rev 2001;(1):CD000227 |
4) | FF02121 | Adachi JD:Alendronate for osteoporosis. Safe and efficacious nonhormonal therapy. Can Fam Physician 1998;44:327-332 |
5) | FF02909 | Cardona JM, Pastor E:Calcitonin versus etidronate for the treatment of postmenopausal osteoporosis:a meta-analysis of published clinical trials. Osteoporos Int 1997;7:165-174 |
6) | FF00268 | Anonymous:Risks and benefits of estrogen plus progestin in healthy postmenopausal women:principal results From the Women's Health Initiative randomized controlled trial. JAMA 2002;288:321-333 |
7) | FF02132 | O'Connell D, Robertson J, Henry D et al:A systematic review of the skeletal effects of estrogen therapy in postmenopausal women. II. An assessment of treatment effects. Climacteric 1998;1:112-123 |
8) | FF00792 | McClung MR, Geusens P, Miller PD et al:Effect of risedronate on the risk of hip fracture in elderly women. Hip Intervention Program Study Group. N Engl J Med 2001;344:333-340 |