EBMに基づく尿失禁診療ガイドライン
III 尿失禁診療ガイドライン |
2. 腹圧性尿失禁の治療
(3) 外科的治療
2)手術成績
女性腹圧性尿失禁に対する外科的治療に関して、種々の術式の治療成績の比較は、尿失禁改善に関する定義のばらつきが大きい、長期成績を検討した論文が少ない、手術方法が一定でなく術者による変更が多い、無作為比較研究が極めて少ないなどの理由で容易ではない。以下に述べる手術成績は、主に1997年米国泌尿器科学会作成の女性腹圧性尿失禁の外科的治療に関するガイドラインにおいて行われたメタアナリシスによる長期成績の検討42)、および最近報告されている無作為比較試験に基づいたものである。
ここでは述べなかったが、主に膀胱瘤の治療として行われる前腟壁形成術については、Burch恥骨後式膀胱頸部挙上術に比べて短期成績、長期成績ともに尿失禁消失率は不良である43,44)。経腟式膀胱頸部挙上術については、種々の術式間の成績の比較は困難であるが、短期成績についてはBurch恥骨後式膀胱頸部挙上術と同等の成績が得られるものの45,46)、長期成績は低下することが指摘されている26)。また、ISDに対する経腟式膀胱頸部挙上術の成績は、膀胱頸部過可動に対する成績に比べて劣る41)。腹腔鏡下Burch手術の成績は検討中であり47,48)、長期成績は不明である。一方、スリング手術については、尿失禁の病態にかかわらず、尿失禁消失率の短期・長期とも安定した良好な成績が示されている。TVTスリング手術については、文献上の検討は少ないが、短期成績についてはBurch手術との大規模無作為試験で同等の成績が示されており49)、長期成績としては3年における尿失禁消失率91%と良好な成績が報告されている50)。メタアナリシスによる4年以上の長期成績では、尿失禁率(中間値)は、恥骨後式膀胱頸部挙上術84%、経腟式膀胱頸部挙上術67%、前腟壁形成術61%、スリング手術83%と示されており、恥骨後式膀胱頸部挙上術とスリング手術が、他の術式に比べより有効であった42)。尿道周囲コラーゲン注入療法は再発率が高く、尿失禁消失率は他の術式に比べて低く、長期成績は不明である。