EBMに基づく尿失禁診療ガイドライン
III 尿失禁診療ガイドライン |
1. 診断
(1) 初期評価(一般医の評価)
1)問診(必須検査)
尿失禁患者に対しては十分な問診が必要であり、問診表(「尿失禁の基礎知識」、図3)を使用すると便利である。
<1> 尿失禁の起きる状況と期間
女性の尿失禁ではどのような状況で失禁が起きるかを明確にすることが肝要であり、問診のみで尿失禁のタイプを判定できる症例も多い。典型的な腹圧性尿失禁では、腹圧の加わる状況(咳、くしゃみ、走る、歩く、重い物を持つ、スポーツなど)に限って尿が漏れ、安静臥床時には失禁は起こらない。一方、切迫性尿失禁は強い尿意とともに「がまんが利かずに漏れる」もので、頻尿を伴うことが多い。混合性と考えられる場合は、どちらがより困る症状なのか、腹圧性と切迫性の比重を確認する必要がある。また、尿失禁が発生するようになってからの期間や尿失禁の状態(頻度、重症度、時間帯、下着やパッド、オムツの交換回数、生活への影響など)を把握することで、治療の適応や治療方法の選択の参考とすることができる。
<2> 既往歴、合併症
出産歴、閉経・ホルモン補充療法の有無を聞く。脳血管障害、脊髄疾患、糖尿病などの排尿状態に影響を与えうる疾患、骨盤内手術や過去の尿失禁手術の既往は、尿失禁の発症との前後関係を含めて問診により十分把握しておく必要がある。
<3> 薬剤歴
利尿薬、抗コリン薬、向精神薬、カルシウム拮抗薬、交感神経遮断薬、交感神経刺激薬などの薬剤はその使用頻度が比較的高く、尿失禁の状態に影響を与える可能性があるため、その使用状況を把握しておく必要がある。必要に応じて薬剤継続の是非に関して専門医に相談を行うのが望ましい。
<4> その他
性器下垂感、排尿困難、排尿痛、血尿といった尿失禁以外の症状、水分やアルコールの摂取状況、排便機能ならびに性機能に関しても問診する。また、特に高齢者においては日常生活動作の低下、精神状態(精神病の合併、認知機能低下や痴呆の有無)、生活・社会的環境にも注意をはらい問診をする必要がある。